2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
7月4日の日経新聞朝刊に「日経平均連動ETF 分配金に希薄化顕著に」という見逃せない見出しがありました。
「分配金を受け取る権利の確定日を控え機関投資家によるETFの新規組成が急増。一口当りの分配に希薄化が起きているためだ。機関投資家に認められた特別のETF取得方法が配当二重取りにつながり個人投資家が不利益を被っているとの指摘も出ている。」という内容です。
株式の配当を受取る権利確定日が3月末でETFの権利確定日が7月上旬とずれているため、4月以降に機関投資家が現物株を持ち込んで新規にETFを組成すると配当を二重にもらえるので、残高が急増していると説明しています。
配当権利をもらってから株をETFに放出、その後ETFからも分配金がもらえる機関投資家にとってオイシイ話のように説明されていますが、世の中そんなに簡単な儲けの抜け穴があるのでしょうか?
■ 金融における「質量保存の法則」
当たり前のようで感覚的に理解しにくいのは、ETFであれ株式であれ、分配金を支払うと価格は下がるということです。
しかし例えば下記のように基準価額が同じ1万円のファンドが2本あったとして、分配金額が異なってもどちらも経済的価値は結局同じということはおわかりいただけると思います。
A.2,000円配当して基準価額8,000円になった
B.1,000円配当して基準価額9,000円になった
投資信託などを分配金の出る直前に買おうとする個人投資家がいますが、分配金と分配金支払い後の価格を合計すれば分配前の価格と同じであり、税金を考慮しなければ、投資したお金の一部が戻ってくるだけのことで意味はありません。いわゆる配当取りには経済的合理性は無いのです。これは毎月分配型商品が何だかおトクなように錯覚するのと同じ行動心理学のワナです。
■ 「質量保存の法則」はETFにも当てはまる
では話を戻して、ETFの分配金と分配後の価格の関係を考えてみましょう。日経新聞の記事によれば日経平均の予想配当利回り1.01%に対して、ETFの分配金利回りは約0.5%に留まり、希薄化していると指摘しています。
しかしこの記事には分配金支払い後の基準価額が考慮されていません。確かに残高が4月以降急増したことによって分配金利回りは低下していますが、その分分配金支払い後の基準価額の下落は小さくなっています。先ほどの例と同じで、「分配金が少ない=損をしている」という訳ではないのです。たくさん配当を受け取ればたくさん配当落ちをすることになり、より少ない資産しか残らないだけのことです。
どうやらプロでも行動心理学のワナに陥ることがあるようです。
図表を使った詳しい説明を運用会社が行っていますので興味のある方はご覧ください。
分配金利回りが下がっても価値は変わらない(PDFファイル)
http://www.nikkoam.com/products/etf/info/etf050713.pdf
■ 問題の本質は配当金の認識方法
ではETFの残高急増の本当の理由はどこにあるのでしょうか?運用会社で日本株のインデックス運用を担当するファンドマネージャーの方に聞いてみました。
投信の受取配当金の認識方法は、株式の配当落ち日において金額が確定していないので、通常は予想配当額の90%を計上し、残額については入金時に計上するのが通例になっているようです。
単純に言えば、もし配当予想が1,000円としたらその90%の900円を3月末に一旦計上。その後実際に入金されたら差額(予想通りなら100円)を計上していくようになっているのです。このような方法だと分配金の差額が計上される前に追加で組成し計上された時にその差額を享受することができるのです。
実際の配当額と未収配当金のギャップが今回の問題の本質ではないかと思われます。そして現状のこの「90%ルール」についてはこの7月以降見直しされるようです。
■ 自分で納得するまで考える
今回の記事から学ぶことは、おかしいと思って納得できないことは自分で理解できるまで調べるということです。私を含め、金融の専門家と思われている人たちでも間違えることはあります。書籍や新聞記事を無批判に受け入れるのではなく、本当にそうなのかな?と考えることが、資産運用では特に大切だと思います。
今回のETFの分配金問題については色々調べましたが、正しくわかりやすい説明は(私の調べた限り)どこにも見つけることはできませんでした。このような個人投資家にとって重要な情報こそ、金融関係者が個人投資家に迅速かつ正確に伝えていかなければならないことだと思います。
今回の話のまとめ---------
■世の中にはオイシイ話はそんなに転がっていない
■プロでも間違えることがある
■おかしいと思ったら自分で納得するまで調べたり考えたりしてみる
ではまた来週・・・。
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