1年後は円高? ★★★☆☆

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

1年後は円高? ★★★☆☆

 最近は日経平均よりも為替レートの変動の方が気になる人が増えているようです。英国の経済誌「Economist」は様々な為替モデルから現状で最も割安になっている通貨は人民元ではなく円であるというモルガン・スタンレーの分析を紹介しています。記事は英語ですが、グラフだけでも興味深い内容です。
為替レート分析の意外な結果(Economistの記事)
http://www.economist.com/finance/displaystory.cfm?story_id=9366051
■為替レートは予想しにくい
 為替レートとは2つの通貨の交換比率です。こう考えると銘柄選択をしなければならない株式投資に比べ単純に思えますが、各国の通貨政策、マクロ経済、金融政策、為替介入、要人発言、イベント、外貨準備、そして投資資金の動きなど様々要素で変動します。単純だけど奥が深く、為替レートの予測というのは難しいものです。

 為替レートの決定には購買力平価説(2国間で同じレベルの商品・サービスが得られる水準に為替レートが決定されるという考え)のような理論的なアプローチもありますが、実際の為替レートはそれらの理論値とは大きくはずれていることが多いのが実態です。将来の為替予想をするための強力な尺度が無いのが現実なのです。

■先物為替レートは金利で決まる
 このように将来の為替レートが予測は非常に困難ですが、現時点で例えば1年後の為替取引をすることは可能です。これはフォワードと言われる先物の取引市場があるからです。通常の為替取引(通常の取引、2営業日後受渡しのスポット取引)と同じように先物為替も相対で取引されています。実際には直先スプレッドを使った取引が主流ですが、日経新聞にもマーケット総合面の外為市場欄に銀行間直先スプレッドが掲載されています。これが現在と将来の為替レートの差額になります。

 実はこの現在と将来の為替レートの差は、2つの通貨の金利差によって決定されています。例えば現状のように円金利よりドル金利の方が高い場合、先物市場で取引される為替レートは現状より「円高」になります。

■もし将来の為替レートが今と同じ水準だったら?
 先物市場の為替レートが円高だ、ということを直感的に理解するには、逆にもし現在の為替レートが1ドル=120円で、1年後の為替取引も同じ1ドル=120円で行われていたらどうなるか、を想像してみると良いでしょう。

 この場合、まず1ドル=120円でドルを買って、1年後の取引で1ドル=120円でドルを売っておけば、円高のリスクは完全にヘッジできます。そしてその1年間は金利の高いドルで運用すれば、為替リスクゼロでドルの高金利運用ができてしまいます。もしこのような事態になったら、ドルを120円で買って、先物市場で売る投資家が殺到します。その結果、最終的にはドルで運用するのと円で運用するのが同じリターンになるように調整されることになるはずです。為替レートが金利によって裁定されるのです。

■実際に計算してみよう
 では先物為替レートの計算を実際にやってみましょう。例えば現在の為替レートが1米ドル=120円で1年金利が米国が4%、日本では1%と仮定します。このとき、1年後の先物為替予約レート(現在取引されている1年後の為替レート)はいくらになるでしょうか。

 1年間ドルで運用する1万ドルと1年間円で運用する120万円が1年後に同じ価値になるように為替レートは計算されるのです。計算してみてください。

(解答はこのコラムのまとめの前↓に掲載しています。)

■外貨との付き合い方
 6月29日のこのコラムでもご説明したように外貨運用は理論的には円で運用する場合と期待リターンは同じです。為替リスクをフルヘッジしたらドルでの運用は円金利を同じになるわけですから、高金利イコール高リターンと考えるのは理論的には間違えています。市場は将来円高になるような体系で成立しているということです。

外貨運用と円運用の期待リターンは同じ?
http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/008041.html

 とすると外貨投資には意味が無いのでしょうか。そんなことはありません。外貨投資を行うことで、リスク・リターンの異なる様々な資産を組み合わせることが可能になります。それによって資産運用の効率性の向上が期待できるのです。つまり分散投資の中に外貨資産を組み入れる発想には意味があるのです。
 いずれにしても外貨投資に必要な心構えは「賢人は常に最高を望みながら、最悪を覚悟する」(ピーター・タスカ)です。

 先物市場では1年後は円高になっていますが、実際に1年後の為替レートがどうなるかは誰にもわからないことなのです。


(解答)1年後の先物為替レート(理論値)の計算方法
ドル10,000ドル×(1+4%)=10,400ドル
円 1,200,000円×(1+1%)=1,212,000円
均衡為替レート
1,212,000÷10,400=116.53円
(税金や取引コストなどは考慮していません)

拙書「資産設計塾 外貨投資編」220ページに詳しい説明がございます。
http://www.monexuniv.co.jp/book/#credit

今回の話のまとめ---------
■為替レートとは2つの通貨の交換比率に過ぎない
■将来の為替レートは金利によって裁定される
■理論的には高金利通貨がハイリターンなわけではない

ではまた来週・・・。

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