行動経済学で投資のリターンは改善できるか ★★☆☆☆

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

行動経済学で投資のリターンは改善できるか ★★☆☆☆

 12月の15日16日の2日間にわたって大阪大学のキャンパスで開催された行動経済学会の第1回大会に出席してきました。従来の経済学は合理的な人間の意思決定を前提として研究されてきましたが、現実を見ると意思決定は合理的ではなく、感情的になっていることが多く見られます。そのような不合理な人間の行動を前提とした経済学が行動経済学と言えます。

 これは投資の世界でも同じで、行動経済学的アプローチによって、投資のリターンの改善方法が見つかる可能性があります。

 立正大学の林康史さん、慶応大学の小幡績さん、信州大学の真壁昭夫さんなど、マネーの世界でもおなじみの皆様も出席されていました。

行動経済学会はこんな活動をしています

http://www.iser.osaka-u.ac.jp/abef/

 具体的にどのような可能性があるのか学会の発表の中から個人的に興味深いと思ったものをご紹介したいと思います。

■ 日本の株式市場には歪みがある?

 上智大学の川西氏の発表は、過去数年間の日本の株式市場のデータでの分析によって、時間帯による株価変動の特異性について興味深い事実が報告されました。

時間帯による株式投資収益率の差の研究(PDFファイル形式)

http://www.iser.osaka-u.ac.jp/abef/yokou/yokou.No.11.kawanishi.pdf
 全体では日本の株式市場の上昇局面であったにもかかわらず、午前中(前場)や昼休みの株価上昇率が、他の時間帯に比べ低いという結果が出ました。理由は明快に分析されていませんが、もしこの状態が続くのであれば、大引けに買って、翌日の寄り付きで売却する、あるいは前場に売って後場の寄り付きで買い戻すといった投資戦略で利益を上げられることになります。

■ 取引手法による資産運用力の違いはあるか?

 また一橋大学の高橋氏の研究では投資スタイルとリターンの関係の分析を行っていました。例えばナンピンをかける投資家と下がると損切りをする投資家の比較したり、売買頻度が高い投資家と低い投資家での収益性を比較することで投資スタイルの違いが投資リターンに有意な影響を持つのかを調べることができるのです。

 具体的な成果が明らかになるには、膨大なデータの解析が必要でまだ時間がかかりそうですが、感情的な取引をする人のリターンは低くなることが予想されます。

■ トレードゲームで勝てる投資家を探す

 また別の大学教授の方は、トレードゲームを使って投資家の心理と取引の結果の分析を行っています。トレードゲームと言っても本格的なもので、大学の関係者だけではなくプロのファンドマネージャーにも参加してもらい、取引データを蓄積して研究しています。

 面白いのはプロのファンドマネージャーだからといって必ず高い運用成果を出すとは限らないところです。参加者の中には、結果を見て不機嫌になって帰っていくファンドマネージャーもいらっしゃるとか。トレードゲームの結果で感情的な反応をする人は投資の成果を出しにくいという結果を証明しているようです。

 金融の現場にいる人とアカデミックな世界にいる人が協力して研究を行うことによって、投資のリターンを改善する方法のヒントが見つかる可能性があると思います。

 そんなわけで、私の2008年の目標の1つはマネックスメールの読者の皆様に行動経済学会の研究成果を具体的な投資手法として情報提供すること、です。確約はできませんがご期待ください。 

今回の話のまとめ---------

■ 人間の感情を考慮したのが行動経済学

■ 資産運用の世界にも応用が可能な学問

■ 資産運用の現場からのインプットがさらに具体的な成果をもたらす

ではまた来週・・・。

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