「投資本」の見分け方

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

「投資本」の見分け方

東京は猛暑です。こんな日は外に出るのはやめて涼しい室内で読書!ということで、投資書籍のご案内・・・といきたいところですが、今回は少し違ったアプローチで投資本のお話をしてみたいと思います。というのは、最近またおかしな投資本が発売されるのが目につくようになってきたからです。

 相場の低迷時期になると出てくるのが、不安煽り系の投資本です。アメリカ経済は崩壊する、資本主義は終焉する、日本は衰退するといった、極論で不安心理に付けこんでくるのです。「金融コンサルタント」「サブプライム問題を予言したプロ投資家」「伝説のトレーダー」といった肩書きの人に、もっともらしい意見を言われるとそれを鵜呑みにしてしまう人が多いのは困ったことです。

 そんなわけで、今回は投資本の見分け方を、読んではいけない本を避けるための基本編と、良書を見分けるための応用編にまとめてみました。

■ 投資本の見分け方(基本編)
 まず読んではいけない本を見つけるための基本編です。書店にある大量の投資本から読んではいけない本を避ける技術は簡単です。

 1つは「ローリスクで短期間で絶対に1億円作る方法」といった無責任なタイトルの本には近づかないことです。投資の世界の基本として覚えておいて欲しいのは「タダ飯は無い」ということ。つまりリターンが欲しければリスクを取る、人より高いリターンが欲しければ人より優れた分析を行うことが必要なのです。ラクをしてリスクも取らず、短期で利益を上げる方法はないのです。
 もう1つは「あるべき論」を書いた本です。投資本は経済本とは異なり、与えられたマーケットの中でどうやってリターンを上げていくかを具体的に提案する必要があります。理論的にはこうなるべき、政府の対応はこうあるべき、といった話をしてもリターンには結びつきません。現実を批評することではなく、現実の中でどうするか、を知る必要があるのです。

■ 投資本の見分け方(応用編)
 次に応用編です。今度は、悪書を避ける方法ではなく、良書を見つける方法を考えてみましょう。投資に関する書籍を読む目的は利益を上げることです。もちろん確実に利益を上げる方法はありませんが、どのような投資手法を使うかについては具体的な記述が必要です。

 投資のリターンの源泉としては、次の3つの要素の要素が考えられます。
・銘柄選択
・投資タイミング
・アセットアロケーション

 とすれば、どの要素からどのようにして投資するかを根拠を示して具体的に書いてある本が「良い投資本」ということになります。

■ 銘柄選択は難しい
 銘柄選択手法を取り扱った本の中では、具体的な推奨銘柄を掲載しているような本は避けるべきでしょう。そもそも本に書いて何ヶ月も変わらないような銘柄推奨はありえないからです。

 銘柄選択について具体的に定量的なアプローチをしている書籍は「良い投資本」だと思います。バリュー投資のような具体的な選択手法を紹介している本は投資判断に根拠を示しているからです。

 ただし、銘柄選択というのはプロでも難しいというのは覚えておくべきでしょう。日本株の投資信託でインデックスよりも高いリターンを実現するのは、半分前後。プロの実績でもこの位ですから、銘柄選択でインデックスを越えるハードルがいかに高いかおわかりいただけると思います。

■ 投資タイミングはもっと難しい
 銘柄選択は難しい、とすれば投資タイミングはもっと難しい、と思います。拙書「【新版】資産設計塾」でも「タクティカル・アセットアロケーション」を使った投資タイミングを考える方法を紹介していますが、グローバルな経済、資金の流れ、財政・金融政策といった情報を総合的に判断する極めて高度な判断力が必要です。個人が、相場の変化を読み取って安値で買って、高くなったら売る、といったことを継続するのは口で言うほど簡単ではありません。 
タクティカル・アセットアロケーションに関するバックナンバーコラム
http://lounge.monex.co.jp/column/shisan/2008/06/27.html

 例えば最近読んだ本に投資のタイミングに関するこんな記述がありました。
「リバランスは景気の変わり目に行なうのが正解」

 しかしこれでは投資タイミングは見つけられません。景気の変わり目の判断方法がわからないからです。残念ながらその本のどこにも景気の変わり目の具体的な見つけ方は書いてありませんでした。

 日銀短観、米国雇用統計といった重要な経済指標を説明し、それらのデータから景気の流れを判断せよ、と説く本は数多くありますが、発表された結果をどうやって具体的投資方法に落とし込むかに言及した本はほとんど存在しないのです。

 このように考えていくと、結局投資本の本命はアセットアロケーションに関して具体的な方法を提示する書籍、ということになると思います。アセットアロケーションに関する「投資本」は書籍紹介コーナーを参考にしてください。
おススメ書籍一覧表
http://www.monexuniv.co.jp/service/book_dvd/index.html#book3

 アセットアロケーションに関しては下記のバックナンバーも参考にしてください。

資産配分はリスク、リターン、相関係数で決まるアート
http://lounge.monex.co.jp/column/shisan/2008/04/18.html

勝間和代さんと橘玲さんの投資手法の違いと共通点
http://lounge.monex.co.jp/column/shisan/2008/08/08.html

 長期分散投資は危ない、といった過激な意見が書いてある投資本もありますが、具体的な代案も無く批判を繰り返す本は上記の投資本の見分け方からすれば、読む必要の無い書籍とわかります。

 短期的な視点ではなく長い目で投資を続けるという視点から良書を探してみてください。

今回の話のまとめ---------
■ 投資には「ローリスクで短期間で絶対に1億円作る方法」はない。
■ 投資本のリターンの源泉とその実践方法を考えれば良書が見えてくる■ アセットアロケーションに関する書籍が投資本の本命

ではまた来週・・・。

(本コラムは、筆者の個人的意見をまとめたもので、筆者の所属する組織の公式な見解ではありません。)

内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp

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