2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
先週末2日間にわたって行動経済学会の総会がありました。アカデミックな分野でご活躍されている方から、テレビ・雑誌などのメディアでお馴染みの方までたくさんの方にお会いできました。その中で今回、私が気になったのは、大阪大学の池田教授の「時間選好」のセッションでした。
行動経済学においては従来の経済学が前提としている、人間の合理的な行動を想定していません。感情的な判断によって不合理な行動を取ってしまうことを前提にしているのです。
時間に関する合理的とは言えない行動は、例えば時間割引率や双曲割引といった考え方によって説明が試みられています。
1.時間割引率
「せっかちさ」を計測するのが時間割引率です。例えば、今もらえる1万円と1年後にもらえる1万円、なら誰でも今もらえる1万円を選択します。では、今の1万円をどこまで割引くと1年後の1万円と同じ価値と感じるのか?その割合を「時間割引率」といいます。5千円でも今欲しいというなら割引率は50%です。
この時間割引率の大きな人は少ない金額でもすぐ欲しいという人ですからせっかちな人、小さな人は待つことができる辛抱強い人ということになります。
2.双曲割引による後回し傾向
双曲割引とは1.で説明した時間割引率が一定でなく、遠い将来の割引率の方が低くなる状態です。この傾向が強い人は、遠い未来であれば辛抱強く考えられるのに、目先のことになると辛抱できず後回しにしてしまいがちになります。
例えば、1ヶ月先のダイエット計画であれば厳しいプランを設定できるのに実行日の前日になると、後回しにしてしまう。これは双曲割引による後回し傾向が強い人に見られる傾向です。
池田教授の発表はアンケート調査とBMI(体格指数)を統計的に分析し、時間割引率の大きな人(せっかちな人)や双曲割引の大きな人(後回し傾向の強い人)に肥満が多いという仮説を出しています。肥満には先天的な要素もあり、また他の要因(地域性、食品価格)なども影響している可能性もありますから、単純に結論付けることは危険ですが、興味深い結果です。
また別の調査では、時間割引率が高い人ほど、夏休みの宿題を後回しにする、住宅ローン以外の負債を持っている、喫煙をする、といった傾向があるという結果も出ています。
池田教授のウェブ(雑誌・新聞記事などのバックナンバーも読めます)
http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ikeda/top_jap.html
■ 「せっかち度」「後回し傾向度」と投資の関係
ここからは、池田教授の研究ではなく私の勝手な妄想ですが、もし何らかの方法で自分がどの位せっかちなのか、あるいは後回しにする傾向があるか、を知ることができれば投資の成果の改善に役立てることができないでしょうか?
というのはせっかち度が高いということは、投資で言えば、長期的な利益よりも短期的な利益を求める人ということになると思うからです。そのような人の投資は、過剰なリスクを取ってしまいがちになるのではないかと推定されます。
また後回し傾向のある人は、投資で言えば、せっかく堅実な運用プランを立てたのに、実行しようとするときに、つい面倒になってしまい後回しにしてしまうようなタイプでは無いかと思われます。
もしこのような傾向を自分自身で事前に認識することができれば、予防策を講じることができます。例えば、
せっかち度が高いなら・・・短期のトレーディングで大きなリスクを取るような投資は避け、リスクを抑えた運用をするように管理する。
後回し傾向がある人は・・・例えば、投資手帳のような負荷のかかりにくい仕組みを導入する。あるいは、ファイナンシャルプランナーのような第3者に相談することで、後回ししにくい状態に自分を持っていく。
これらは投資手法の改善につながると思います。
投資教育と言うと、リスクとリターンをベースにした投資理論が思い浮かびますが、それだけではなく、このような行動心理学的なアプローチも取り入れていけば、個人投資家の皆様のお役に立てるのではないか、そう思いました。
投資は「欲望と恐怖のゲーム」。人間の感情的側面を無視して語ることはできません。
今回の話のまとめ---------
■ 様々な要因によってその人の「時間選好」は異なる
■ 「せっかち度」「後回し傾向度」が高いと投資にマイナスかもしれない■ 行動経済学的な分析によって投資の成果を改善できる可能性がある
本年も本コラムをお読みいただきありがとうございました。次回は1月9日の配信予定です。
ではまた新年に・・・。
(本コラムは、筆者の個人的意見をまとめたもので、筆者の所属する組織公式な見解ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp
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