長期分散投資は終わったか?

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

長期分散投資は終わったか?

 昨年の金融危機以降、書店の投資本の売れ筋が大きく変わりました。今まで堅調だった長期分散投資をベースにした書籍はまったく売れなくなり、売上上位には、FXの取引解説書と金融危機を煽る投資本が並ぶようになりました。マネー誌でも長期分散投資より、短期のリバウンドを狙うような投資に個人投資家の興味は移っているようです。

 もう長期分散投資などやっていては、投資の成果は上がらないのでしょうか?
 長期分散投資に関して、このような考え方が出てくる背景には2つの疑問があると思います。1つは分散効果への疑問、そしてもう1つは長期の運用成果に対する疑問です。

<疑問1> 分散効果はもう無くなった?
 分散投資とは資産を株式だけではなく債券、外貨、不動産、商品、というように様々な資産に分散して投資をすることです。相関が異なる資産を保有することで、資産全体の変動を抑えられるというのが分散投資の根拠です。

 しかし、昨年の特に後半からは外国株式、外国債券、日本株、不動産といった多くの資産の相関係数が0.8程度まで上昇し、分散効果が出にくい局面になりました。さらにそれぞれの資産の変動率も高まったため、分散投資をしても以前にくらべるとその効果が実感しにくくなりました。

 実はこのような傾向は以前にも短期的に見られた動きです。今後、マーケットが落ち着けば高い変動率は低下、資産間の相関も低くなり、正常化した段階では、以前と同じように分散投資の効果がより実感される状態になると予想されます。短期の動きだけで結論つけるのはまだ早いということです。

<疑問2> もう市場全体が成長する時代は終わった?
 投資のリターンには2つに分けて考えることができます。

投資のリターン=市場平均(β)+超過リターン(α)

 1つは市場平均から得られるリターン。これはベータ(β)と呼ばれます。インデックス運用によって誰でも実現できるリターンです。

 もう1つのリターンはアルファ(α)と呼ばれます。これはインデックスを上回る超過リターンのことです。

 市場全体が成長する時代は終わったというのは、前者のベータを狙う投資すなわちインデックス運用を否定するということです。

 確かに市場全体の資産価格が今後どうなっていくかについては、恐らく誰にも正しい回答は出せないというのが現実だと思います。

 しかし、世界経済全体の長期的な成長については私は変わることが無いと思っています。短期的に先進国の経済成長率がマイナスになったとしても、再びプラスに戻るでしょうし、新興国の経済成長は下がったもののまだプラスの成長です。何より、世界中にはもっと豊かになりたい人たちが存在します。成長への欲求がある限り、政治リスクなど様々なハードルがあっても、全体の経済の方向にはあまり悲観する必要は無いと個人的には思います。

 そのような経済の成長を前提にすれば、ベータを狙うインデックス運用をこれからも続けることには、意味があるのでは無いでしょうか?

■ 投資は長期で考える
 投資は未来にお金を持っていこうとすることです。未来の経済状況やマーケット環境は予想できませんから、どの投資スタイルがベストなのかは将来にならないとわかりません。

 その判断材料として過去データを使うわけですが、大切なことは1年2年だけの短期的な動きを見て、感情的な行動に走らないことです。NYテロがあった時も資本主義はもう崩壊した、と思った人がたくさんいました。山一証券が自主廃業した時も日本の金融システムは崩壊すると考えた人がいました。

 短期のシンボリックな出来事に感情的に反応すると本質を見失う危険性があります。昨年の金融危機についても冷静な目で見る必要があります。

■ 終わったのは長期分散投資ではなく・・・
 そこで長期分散投資と言えば、この会社。イボットソンの小松原さんにお越しいただき、1年半ぶりにお話を伺ってみました。マネックス・ユニバーシティの受講者特典動画です。例えば、

・米国の恐慌時にドルコスト平均法で積立していたらどうなったか?
・市場の急落局面で元の価格に戻るのにはどの位かかったか?
・4資産均等投資だと何年保有すれば元本割れしなくなるか(過去データ)?
など、個人投資家の皆様の素朴な疑問や不安を解消できる内容になっています。対談形式でコンパクトにまとめました。

長期分散投資の時代は終わったか?
http://www.monex.co.jp/AboutUs/00000000/guest/G800/new2009/news901l.htm
 1月26日から公開しておりますが、これからお申し込みいただいても同じ内容をご覧いただけます。

 タイトルの「長期分散投資は終わったか?」に関して言えば、私はむしろ、短期投資で相場のあやを取るような手法こそ終わったのではないか、と思っています。他の投資家を出し抜いて利益を得て、そのアルファを積みあげる投資スタイルには、継続性が無いと思うからです。

今回の話のまとめ---------
■ 分散効果が下がったのは相関係数と個々の変動率の2つの上昇が原因
■ 長期投資が報われるためには、まず経済全体の成長が前提となる
■ 投資の環境が今までと変わったと断定するのは短絡的

ではまた来週・・・。

(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)

内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp/

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