2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
「村上レポート」をご存知でしょうか?マネックス証券のチーフ・エコノミストの村上尚己が金曜日に発表している経済レポートです。私も毎週読んでいます。
週末にはこのページをチェック「村上経済レポート」
http://www.monex.co.jp/Etc/topslide/guest/G100/er/index.htm
現在のマーケットのテーマについて掘り下げて解説してあるコンテンツですが、これを資産設計に活かす方法を今回は考えてみたいと思います。「【新版】資産設計塾」をお読みの方はもうお気づきかもしれません。村上レポートを使った、タクティカル・アセットアロケーション(TAA)です。
■ タクティカル・アセットアロケーションとは?
本コラムではアセットアロケーション(資産配分)の重要性を繰り返し伝えていますが、アセットアロケーションには2つの段階があります。ストラテジック・アセットアロケーション(戦略的資産配分 SAA)とタクティカル・アセットアロケーション(戦術的資産配分 TAA)です。
ストラテジックな資産配分とは、基本となるアセットアロケーションのことで、期待リターン、資産間の相関、許容リスクなどから配分比率を考えていくものです。単にアセットアロケーションという場合は通常SAAを指します。これは、資産運用には欠かせない手法です。
一方のタクティカル・アセットアロケーションとは、SAAで決めた基本資産配分比率をベースに、上下にレンジを設け、相対的に強気であれば、配分比率を大きく、弱気であれば配分比率を下げる、といった戦術です。高度な投資手法で誰でもやれば良いというものではありません。
■ 実際に直近のレポートを読んで相場観を考えてみる
年金基金などをグローバルに運用する機関投資家は、SAAを設定した上で各地域のアナリストの分析に基づいて相場見通しを作成し、それを使って、戦術的な資産配分(TAA)を行うというプロセスを取ります。この方法を応用してみましょう。
個人投資家がTAAを活用する場合、相場見通しに基づき、資産別に強気・弱気を最も強気(+++)から最も弱気(---)まで想定します。そして例えば+(プラス)1つにつき+2%、-(マイナス)1つにつき-2%というように、SAAと乖離させます。
具体的にどんな方法が考えられるのか、2月20日のレポートを例に考えてみましょう。
なぜ日本経済の落ち込みが最も深刻なのか?(直近レポート)
http://www.monex.co.jp/static/jpmorgan/er/global_20090220_1.pdf
このレポートで注目したのは次の2つのコメントです。
1.為替市場において「資金の逃避先」としての「円」の位置づけが変わる可能性に留意したい。
2.米経済の底入れがはっきりとするまでは(筆者は2009年央と想定している)日本株投資には慎重なスタンスで臨みたい。
(1.2.とも村上レポートから引用)
次にコメントを数値化するプロセスに入ります。通貨の中では円に弱気(つまり円安)、資産の中では株式(特に日本)に弱気、という相場観を想定できますから、資産配分を調整します。
日本株式 -- (4%アンダーウエイト)
日本債券 - (2%アンダーウエイト)
外国債券 +++(6%オーバーウエイト)
すると標準の資産配分は次のように変わります。
<タクティカル・アセットアロケーションによる修正>
日本株式 30%→26%
日本債券 10%→8%
海外株式 20%→20%
海外債券 20%→26%
流動性資産&その他の資産 20%→20%
以上は村上レポートを使った私の個人的な見解です。読者の皆様はもしかしたら異なる結論を持たれるかもしれません。数値化のプロセスは完全に定量化できないからです。
■ TAAは諸刃の剣
TAAの手順をまとめておきましょう。次の3つのプロセスで実行していきます。
1.信頼できる情報源を見つけ情報収集する(インプット)
2.情報を分析し、自分なりの相場観を立てる(アナリシス)
3.相場観を数値化して資産配分を短期的に変更する(アクション)
TAAは、株式、金利、為替、などの相場観についてマーケットの一般認識(コンセンサス)と大きなギャップがある場合、有効ですが、逆に思惑が外れた場合は、リターンが悪化するリスクがあります。よくある失敗例は、マーケットの動きに翻弄されて、相場の後追いになってしまうケースです。
TAAとは、3つのプロセスがきちんと出来て、初めて高い効果が得られる高度な運用手法であることは覚えておいてください。
今回の話のまとめ---------
■ アセットアロケーションには、SAAとTAAの2つの段階がある
■ 相場情報を分析して、資産配分を戦術的に変更させることができる
■ 3つのプロセスに間違えがあるとTAAは逆効果
ではまた来週・・・。
(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp/
資産設計に関する書籍をまとめたサイト
http://www.monexuniv.co.jp/service/book_dvd/index.html#book3
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