日本では投資信託の手数料が下がっていないって本当?

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

日本では投資信託の手数料が下がっていないって本当?


 通勤時間に日本経済新聞を読むのが毎朝の楽しみなのですが、今週17日の経済面のこんな見出しを見て「アレッ?」と思いました。

【見出し】投信手数料下げ進まず 信託報酬1.330%、6年連続上昇

 と大きく書かれています。ちなみに信託報酬とは投資信託の保有期間中にかかる手数料です。コストが上昇しているというネガティブな印象を受けます。
 記事によれば、この信託報酬が6年連続で上昇しているとのことですが、何だか違和感がありました。私は逆に信託報酬は運用会社の競争激化によって低下しているのではないかと思っていたからです。

2009年は運用会社のインデックスバトルが本格化する予感(バックナンバー)http://lounge.monex.co.jp/column/shisan/2009/01/16.html

 そこで、この記事のデータ提供元であるモーニングスターのホームページを見てみると、事実が見えてきました。加藤信之さんという投信アナリストの方の分析記事が元の記事のようです。

日米のファンドコスト比較(2009年4月30日)
http://www.morningstar.co.jp/fund/analyst/2009/2q/a0430.html

■ 単純平均なのか、加重平均なのか?
 日本の投資信託の信託報酬は本当に上昇しているのでしょうか?単純平均では確かに上昇しています。しかし、残高を加味した加重平均では、逆に2001年から信託報酬は低下傾向です。

単純平均 1.28%(2001年)→ 1.32%(2008年)※
加重平均 1.45%(2001年)→ 1.25%(2008年)
(※日経新聞と数字が異なるのは年末データ(日経は3末データ)のため)
 これはコストの低いインデックスファンドの比率が高まったり、同じインデックスファンドでも高コストのものが償還し、低コストのものが設定されたことが影響しているようです。

 なので「投信を100万円保有していた場合に信託報酬を年間に1万3千円余り支払う計算だ」という記事の内容は厳密には正しくありません。加重平均で見ていないからです。加重平均で計算した数値の方が、個人投資家全体のコストをより正確に示しているように思いました。

■ 日本はアメリカより手数料が高いのか?
 次にアメリカとの比較です。日経の記事では米国では「残高の大きな投信が手数料を引き下げるケースが多く、日本でも同様の取組みが検討課題になりそうだ」と締めくくられています。

 アメリカの個人投資家のコスト意識が高いのは数字から明らかです。単純平均で見ると、アメリカの信託報酬は1.61%なのに加重平均は0.88%とかなり低くなっています。これは、米国の残高上位20ファンドのコストが安いのが理由です。驚異的な低コストであるバンガードのインデックスファンドだけではなく、アクティブ型の商品でもコストがすべて1%以下になっています。

 日米で比較すると、日本ではアメリカほど低コストファンドへの資金集中が進んでいないことが推定されます。手数料を引き下げなくても、個人投資家が低コストファンドに資金シフトさせれば、米国同様の状況になるのではないでしょうか(手数料が下がれば、それはそれで個人投資家にとっては良いことですが・・・)。

■ インデックスファンドの手数料はやっぱり下がっている
 しかしインデックスファンドだけで見ると、日本でもコスト意識が高まっていることがわかります。インデックスファンドの信託報酬の平均は、2001年には0.7%以上だったのが、2008年には0.56%程度まで低下しているのです。これは、前述の通り、低コストのインデックスファンドの影響と思われます。
 米国の個人投資家と同じように、日本でもインデックス投資家に限って言えば、コスト意識が高まってきているということです。今後、日本でもこのコスト意識の高まりがインデックスファンドだけではなく、投信全体に広がっていくことが予想されます。

 統計データは計算の方法や情報の取り方によって、逆の結果になってしまうことが良くあります。おかしいな?と思ったらできるだけ原典に当たってみることです。この新聞記事が意図的なものだったのか、記者の理解力の問題だったのかはわかりませんが、少なくとも見出しから受けた印象と、調べてみた実態にはズレがあるように感じました。

 低コストの投資方法については下記の書籍の105ページからもご覧ください。
【もうすぐ締切】新刊書籍「初心者は株を買うな!」を抽選でプレゼントhttp://www.monexuniv.co.jp/new/2009/_3_1.html

今回の話のまとめ---------

■ 投信手数料は上昇しているが、インデックスファンドでは低下

■ 米国と日本の信託報酬の比較は加重平均と単純平均で逆の結果になる
■ 情報がおかしいと思ったらデータ元を当たると真実が見えてくる

では、また来週・・・。

(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)

内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp/

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