デイトレーダーは割に合う仕事なのか?

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

デイトレーダーは割に合う仕事なのか?

大学を卒業して入社した大手証券会社を退職し、歩合ディーラーの仕事をしているKさん(20代)とランチをしました。歩合ディーラーとは、いわゆる地場証券の勘定を使って株式の売買を行い、その収益によって歩合給を稼ぐ契約社員です。「プロのデイトレーダー」と言っても良いでしょう。転職してからもう数年経つということですから、マーケットの激しい競争の中で生き残ってきた「サバイバル組」ということになります。

 先月、とある会合で偶然話を聞かせてもらい興味を持ち、今回お昼の時間にもう少しゆっくりと話を聞かせてもらいました。

■ 歩合ディーラーの一日は相場次第
 株式の売買を仕事にしている訳ですから、マーケットの開いている日はオフィスで取引をしています。しかし、実質仕事をしているのは前場と後場の4時間半だけです。15時に現物取引のマーケットが終わると、その日の取引の整理などを行いますが基本的には仕事は終わりです。夕方には残業も無く、定時に帰ることができます。

 また、マーケットがあまり動かない時、取引を控えた方が良いと判断する時には、まったく取引しない日もあります。そんな時は、他に仕事はありませんから、ネットサーフィンしているうちに一日が終わることもあるそうです。つまり、歩合ディーラーの仕事とは、

 取引ルールを守って利益を出す、という目標が明確な仕事

なのです。

■ 生き残っている歩合ディーラーはこんな人
 実は、自分の資金で売買をしている個人投資家を含め、毎日短時間に売買を繰り返すデイトレーダーの大半は、昨年の金融危機によって多くの人が淘汰されてしまったようです。それまでは、相場の方向性が比較的わかりやすく、Kさんが言うところの「誰でも買えば儲かった市場」だったのが、難しいマーケットに変化したのが原因です。

 Kさんのいる会社の場合、社内のルールで、ディーリング収益が3ヵ月連続でマイナスになると契約打ち切りになってしまうそうです。歩合ディーラーの世界は、たくさんの人が入ってきて、たくさんの人が出て行く厳しい世界です。

 では、どんな人がマーケットで生き残っているのでしょうか。

 Kさんの見立てによれば、大きなポジションで大胆にリスクを取って大きく儲ける人たちの多くは、最後に大きな損を出し、結局市場から退場していったと言います。相場の変動の中で生き残ったのは、リスク管理を厳密に行い、過剰なリスクを取らなかった堅実で慎重なディーラーだけのようです。
 また興味深かったのは、メンタルな側面が結果に大きく影響しているということです。例えば、週末にアルバイトをしたりするのは、ディーラーに微妙なメンタリティの変化をもたらすそうです。時給1000円のアルバイトをはじめると、ディーリングで数分で10万円単位で損失を出してしまうようなリスクが取れなくなってしまうらしいのです。また結婚したり、子供が生まれると取引方法が慎重になってしまったり。

 ディーリングの成績を高めるためには、トレードのテクニックを磨くことよりも、イチロー選手や羽生善治さんのような勝負師の本を読み、メンタルコントロールを学ぶことの方が大切だ、という意見も何だか納得できました。
■ 売買を繰り返す仕事に社会的な価値はあるのか
 人によって取引スタイルは異なりますが、歩合ディーラーがポジションを持っている時間は、ほんの数分です。短期売買を行う投資家同士がゼロサムゲームでパイの奪い合いをしている仕事ですが、Kさんはデイトレードにも社会的価値があると言います。

 それは、流動性を供給しているという価値です。デイトレーダーが取引する銘柄は売買高が増え、結果として値段がつきやすくなります。これは、マーケットに参加している他の投資家にメリットを与えていることになるのです。多様な投資家が市場に参加することによって厚みが増し、市場参加者にとって恩恵があるということです。

■ デイトレーダーは割に合う仕事なのか?
 では、歩合ディーラーの仕事をは割りに合うのでしょうか?色々話を聞きながら、私なりに考えてみました。

 まず、短期売買はゼロサムゲームが前提ですから、市場が非効率性でないと利益を上げられません。はっきり言えば、自分が優位に立てるようなスキルの低い投資家が入ってくれば、そこから合法的にリターンを上げることができます。逆に、現状のように個人投資家の多くが淘汰され、生き残っているのが百戦錬磨の上級者ばかり、となると利益を上げるのは難しくなります。
 テニスに例えれば、以前は素人も混じって一緒にテニスの試合をしていたのが、最近は毎日がウィンブルドンのセンターコートのようになってしまい、そんなプロ同士の試合に勝たないと収入が得られない状態ということです。
 次にキャリアパスについてです。この仕事には年齢によるハンディはありません。むしろ経験を積んでいる方が有利なのかもしれませんが、歩合ですから収益が上がらなければ収入も増えません。昇給という概念は無いのです。
 しかも、契約社員という不安定な職業でもあります。売買のスキルが年々アップする、というのがキャリアアップへの道なのでしょうが、通常の仕事に比べその道筋が見えにくいのは、厳しい仕事と言えます。

 話をしていて気がついたのは、Kさんが同じ世代の若者に比べ生き生きと仕事をしているように見えたことです。実力だけで評価され、結果がすぐにフィードバックされるアスリートのような仕事だからでしょうか?とてもエキサイティングな毎日に現状は満足しているようです。転職して給料は下がった、と笑いながら話す表情には後悔は感じられませんでした。

■ 歩合ディーラーの相場の見方は長期投資家にも参考になる
 他にも個人投資家の参考になりそうな話をたくさん聞くことができました。そんな歩合ディーラーの投資経験談をマネックス・ユニバーシティの投資コンテンツ教育に活かすことはできないか?と考え、動画でも出演してもらうことを企画しています。

マネックス・キャンパスの動画コンテンツ【受講者限定】
http://www.monexuniv.co.jp/service/campus/member/index.html

今回の話のまとめ---------

■ 生き残るデイトレーダーはリスクを取り過ぎない慎重な人

■ 証券投資にはテクニックとメンタルコントロールが重要

■ 歩合ディーラーの相場の見方は長期投資家にも参考になる

では、また来週・・・。

(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)

内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp/

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