日本の個人金融資産1400兆円は一体どこにあるのか?

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

日本の個人金融資産1400兆円は一体どこにあるのか?

最近ツイッターにはまっています。ツイッターというのはネット上で参加者同士が140文字で情報配信してお互いにシェアできるサービスです。ブログと似ているのですが、日記のような内容だけではなく、専門家がすすめる経済情報のスクリーニングツールとしても活用できます。

私もツイッターやっています(誰でも無料で簡単に始められます)
http://twitter.com/Shinoby7110

使ってみるとわかるのですが、今まで気がつかなかったような貴重な情報を発見できたりします。今週ツイッターである方が推薦しているレポートに気がつきました。執筆者を見ると、私が新人の時、同じ銀行で同期だった小池拓自さんが国立国会図書館から出しているリサーチレポート「家計金融資産1,400兆円の分析」です。少し前のレポートですが、今読んでみても個人金融資産に関する重要な指摘と言える内容です。

「家計金融資産 1,400兆円の分析」(PDFファイル)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0491.pdf

■個人金融資産が1,400兆円というのは誤り?
マスメディアで日本の個人資産として、よく1,400兆円という数字が使われます。これは日銀の統計(資金循環統計)に掲載されている数字なのですが、単純計算すると(赤ちゃんからお年寄りまで)日本人1人当たり1000万円以上の金融資産を持ち、1世帯当たりでは3000万円近くという計算になります。この感覚は実態とはかなりずれているのではないでしょうか。

小池氏は、この個人金融資産の数字を検証し、実際にはもっとずっと小さいことを指摘しています。

まずこの数字には、負債の存在が考慮されていません。家計金融資産は1,400兆円となっていますが、負債も400兆円近くあるとされています。住宅ローンなどの負債を差し引いたネットで考えるべきなのです。

また、資産の質について考慮すべきと説いています。金融資産1,400兆円のうち、半分以上は現金と預貯金、そして2割以上が保険・年金に振り向けられています。安全性の高い資産とされていますが、これらは銀行、郵貯、保険会社が運用している資産です。そして銀行の2割弱、郵貯の9割の資金は国債購入になっています。

つまり、安全資産とされている現金・預貯金の一部は、金融機関を経由して最終的には国に流れているということです。国の借金である国債の償還は最終的には国の課税権によって担保されている「安全な資産」のはずですが、簡単に増税ができるわけではなく、今後の国の財務状況のチェックは必要だと思います。

さらに、日銀の統計の個人金融資産の中には個人事業主(個人企業)の事業性資金も含まれています。これらは純粋な個人金融資産とは言えず、別に考える必要があります。

■個人金融資産は1,400兆円ではなく実は600兆円以下?
個人金融資産に関するデータは日銀統計以外にアンケートで調べている「家計調査」もあります。こちらはアンケート調査なので回答内容にバイアスがかかっている可能性もありますが、これをベースに計算すると負債を差し引いたネットの個人金融資産は572兆円と資産されます。1,400兆円に比べると半分以下の数字です。

■統計データは平均だけで考えてはいけない
さらに金融資産の分布を見ると1世帯あたりの平均貯蓄残高は1,700万円程度となっていますが、平均以下が7割近くを占め、最も世帯数の多いのは200万円以下の階層になっています。

逆に4000万円以上の貯蓄を持つ世帯は全体の10%なのに、貯蓄の4割を占めています。

つまり、日本の個人金融資産の保有はかなり偏っており、平均で計算した結果だけで判断すると間違えやすいことがわかります。

■日本人はお年寄りほどお金持ち
今度は、世代別に貯蓄残高を見てみましょう。すると、世帯主の年齢が高いほど平均貯蓄残高が大きいことがわかります。レポートで紹介されているデータはこうなっています。

20代   351万円

30代   709万円

40代   1,158万円

50代   1,729万円

60代   2,379万円

70代以上 2,517万円

つまり、日本ではお年寄りほど(平均すれば)お金持ちということになります。必要なお金は保有すべきですが、使いきれないお金を貯め込んでいても結局使わないのであれば、自分にとっては不必要なものと言えます。

日本の個人金融資産は1,400兆円、という言葉だけを鵜呑みにしていると個人金融資産の本当の姿は見えてきません。専門家が分析するこのようなレポートを読むことによって、自分の金融資産をこれからどうするべきか、が見えてくるように思います。

新聞、雑誌、テレビだけではなく、ネットで得られる情報や海外からの情報を俯瞰することによって、新しい視点を得ることができるのです。

※文中のデータは断りの無い限り、ご紹介したレポートの数字をそのまま使わせていただきました。

今回の話のまとめ---------

■世の中には優れた情報がたくさん眠っている

■みんなが言っていることが正しいとは限らない

■多様な情報収集チャネルを持つことで正しい判断に近づくことができる

では、また来週・・・。

(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)

内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp/

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