その405 市場が間違っているのか?それとも自分が間違っているのか?

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

その405 市場が間違っているのか?それとも自分が間違っているのか?

人間は、自信過剰になりがちな動物です。例えば、こんな質問を考えてみてください。

質問1 あなたの運転技術は、ドライバーの平均より上だと思いますか?
質問2 あなたは会社で仕事の実力が過小評価されていると思いますか?
実際にアンケート調査してみると、自分が平均より優れたドライバーである、と思う人や、会社で実力以下しか評価されていない、と思う人が半分以上存在したりするのです(実は私も自信過剰な一人です ^^;)。

このような傾向は、投資の世界でも同じです。実は行動経済学では、自信過剰(オーバーコンフィデンス)が、投資の失敗の原因であることが指摘されています。

■塩漬け株の生成メカニズム

例えば、自分が買った株が値下がりした時、多くの投資家は自分の投資判断が間違えた、とは思いたがらないものです。むしろマーケットの動きが間違っていると考える人が多いのです。しかし、間違えているのは、マーケットではなく自分自身だったりするものです。

「自信過剰な投資家」は、このような自分が誤った判断をしても、それを過ちと認めたがりません。そして、そのままにしておく結果、損失が拡大していきます。最後には、現実を見ることが苦痛になり、投資から目を背けてしまうのです。

これを業界用語で「塩漬け株」と呼びます。

■投資では成功する「草食系」、失敗する「肉食系」

自信過剰な人というのは、自分の誤りを認めることをしたがらないプライドの高い人でもあります。間違えたことを修正できずに続けていってしまい、最悪の結果を招いてしまうのです。

投資で成功する人は、自分で投資判断をする一方で、自分を客観視でき、間違えたと思ったら躊躇なく誤りを認めることができる柔軟な考え方の人です。個人投資家の皆さんとお付き合いしていると、自信過剰な人よりは謙虚な人の方が成功の確率は高いことを実感します。

また、勇敢に獲物を狙うようなリスクを好む人より、臆病で慎重な人の方が投資に向いているように見えます。最近流行の言葉で言えば、「肉食系」より「草食系」が投資向きだと思います。

これは、投資本の名著「敗者のゲーム」(チャールズ・エリス著)でも

「パイロットには年老いたパイロットと勇敢なパイロットが存在するが、年をとった勇敢なパイロットはいない」

と同じことが書かれています。

投資家は謙虚で臆病で、できれば几帳面なのが良いのです。

■「市場が間違っている」と言えるのはジョージ・ソロスだけ?

今週、マネックス証券のチーフ・ストラテジスト羽賀が書いている「投資の知恵」というコラムを読んでいたら、何と「市場は常に間違っている」と真逆なことが書いてありました。

市場は常に間違えている
http://www.monex.co.jp/static/jpmorgan/sr/chie_20100202_1.pdf

これは著名な投資家ジョージ・ソロス氏の言葉として紹介されているものです。確かにソロス氏の投資手法とはこのマーケットの誤りに乗じてリスクを取り、大きなリターンを実現するという方法です。

例えば、バブルが発生していくようなマーケットでは、市場全体が過剰な楽観に支配されていきます。そこで市場のコンセンサスとは反対の投資を行うことで莫大な利益を実現できたのです。

ソロス氏から見れば「市場は間違えている」状態に見えるからこのような投資手法が成功するのです。

■間違っているのは自分?それとも市場?

自分と市場の一体どちらが間違っているのか?2つの見方は矛盾しているように見えますが、良く考えれば、どちらも相場の本質を付いていることがわかります。

バブルの例で言えば、相場が過熱して過剰な楽観に支配されていく過程では、誰でも比較的簡単に投資で利益をあげることができます。自信過剰になってさらに楽観的な見通しが広がっていきます。

するとそれを見た投資家がさらに市場に参入してきます。相場の過熱が一層加速し、マーケットは1方向に動いていきます。この時点で「市場は間違えている」と喝破できるのは、冷静に市場を客観視できるソロス氏のような優れた一握りの投資家だけです。多くの投資家はこの時点では市場は正しいと思っているのです。

その後バブルが崩壊すると、過熱市場に参加した人たちが大きな損失を出して市場から撤退していきます。その時「市場が間違っている」と叫んでも、それは楽観的になりすぎた「投資家が間違えている」のは明らかです。

過剰な楽観や過剰な悲観を正確に認識し、そこから利益を得られる投資家にとっては確かに「相場は間違っている」。しかし、マーケットの動きに振り回され、後追いになっている投資家にとっては「自分が間違えている」ということです。

リターンが出せないのに「市場は間違っている」と言っている投資家は、皆さんの周りにいませんか?

今回の話のまとめ---------

■ 自信過剰は投資で失敗する理由の1つ

■ 市場が間違っていることに、ほとんどの参加者は気がつかない

■ 正しい人と間違えている人が存在するから市場は成立する


では、また来週・・・。

(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)

内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp/

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