2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
クリス・アンダーソン氏が書いた「フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略」という本がベストセラーになっています。無料化することによって収益化する、という新しいビジネスの仕組みが様々な業界で広がっていることを指摘した本です。
低コストのインデックスファンドが次々に登場する中、投資信託の手数料は無料にならないか、という過激な議論をインデックス投資家の方たちが、しているのを聞きました。投資の世界にも「フリー」の可能性はあるのでしょうか。
■ 「フリー」の4つのモデル
そもそも「フリー」という本の中で紹介されている、無料化の仕組みは次の4つに分類されます。
1.直接的内部相互補助
簡単に言うと、無料にすることで顧客を取り込んで、その後有料の商品を買ってみようと思わせる方法。スポーツクラブの無料体験などは、これに当たるかもしれません。
2.三者間あるいは市場の二面性を利用する
サービスを享受する人と対価を支払う人を別にすることです。典型的な例は、広告によって収入を得て、それを原資に無料にする方法です。ポータルサイトが無料で使えるのは、広告などで別の収入を得ているからです。
3.フリーミアム(プレミアムとフリーを合わせた合成語)
有料利用者(プレミアム)が無料利用者(フリー)のコストを負担する仕組みです。例えば、ソフトウェアなどで、無料版があって、気に入って使っているともう少し進んだサービスを受けたくなる。そこから有料になってしまうというやり方です。
4.非金銭的「贈与経済」
対価を期待しない「贈与経済」によって無料でも対価を提供したい人を探してくる方法です。有名な例はネット上の百科事典ウィキペディアです。無料で情報提供しようと思う人たちがコンテンツをネット上で作り、巨大なデータの集積が出来てしまったのです。
■ 投資信託の「フリー」は実現できるか?
では、4つのモデルで投資信託の信託報酬がフリーにできるのか、考えてみましょう。
例えば、最初は信託報酬がかからないけど、保有期間が長くなるとコストのかかる商品だったらどうなるでしょうか?コストがかかるようになった時点で解約されてしまうことが予想され、そんな手数料の商品は作られることは無いでしょう。
また、広告モデルを使うのも現実性がありません。投資信託の信託報酬を広告で賄えるようなコンテンツを投資信託ビジネスにおいて提供できるとは考えにくいからです。
フリーミアムも投資信託には使えそうにありません。投資信託は同じファンドであれば、同じ運用を行いますから、サービスに差をつけるというのは実際に難しいと思われるからです。例えば、詳細な運用報告などの投資家サービスを有料で提供、というような仕組みを作ってもそれが、信託報酬のコストを賄えるとは思えません。
4つ目の非金銭的「贈与経済」を活用するのもハードルが高そうです。例えば、投資を世界に広げたい、と信託報酬ゼロの投資信託を設定する運用会社があったとしたら、投資家は魅力を感じるでしょうか?
既に知名度のある会社であれば、資金を投資する人もいるでしょうが、誰も知らない会社がいきなり始めても、信用が無く資金は集まりそうにありません。逆に信託報酬に見合った運用サービスを提供している会社であれば、フリーにするインセンティブはありません。
■ 金融商品で最も大切なのはコストではなく「安心」
手数料が安い方が投資のリターンは向上するというのは事実ですが、「安かろう、悪かろう」になってしまっては困ります。
良いファンドとは、資産を殖やしてくれる商品ということになるのでしょうが、リターンを保証する投資信託はありません。あるブロガーの方が語っていたように、良い投資信託とは安心できる商品ということになると思います。投資信託の安心とは、私が考えるに次の2つではないでしょうか。
・途中で償還されたりしないで長期で投資が続けられること
・きちんとした運用体制になっていて、方針通りの運用が行われること
例えば、信託報酬が無料の安心できないファンドとある程度の信託報酬はかかるが安心できるファンド。多くの人は後者を選択するのではないかと思います。
金融商品はコストだけでは判断できません。コストがかかってもそれ以上のメリットがあると思えば、その商品は支持を集めるのです。無料であっても安心できなければ商品としての価値はなくなってしまうのです。
フリーで想定しているようなビジネスモデルではこのような安心を提供することができるのでしょうか?
色々考えてみても、少なくとも私の思考能力では、投資信託の手数料をフリーすることで投資家が納得する商品を作り出すアイディアを見つけることはできませんでした。
今回の話のまとめ---------
■ 無料で収益を上げる「フリー」経済が話題になっている
■ 金融商品には安心が最も重要
■ 「フリー」になったからと言って投資信託が売れるとは限らない
では、また来週・・・。
(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
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