その424 毎月分配型が人気なのは安心感を得るため?

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

その424 毎月分配型が人気なのは安心感を得るため?

最近「老後難民」という著書も出された野尻哲史さんは、フィデリティ退職・投資教育研究所の所長として、個人投資家の金融リテラシーについて調査・提言を行っています。

5月に出た最新のレポートでは、毎月分配型投信を購入している個人投資家の意識調査をしているのですが、日本の個人投資家の不思議な投資マインドが分析されています。

■ 分配金額は大きく、そして毎月もらいたい
レポートを見ると、分配金に対する要望としては、今よりもっと多くという人がかなりの比率いることがわかります。これは、毎月分配型商品の保有者に対する調査なので当たり前なのかもしれません。しかし、分配金を多くするということは、リスクが高くなることを理解した上での回答のようですので、意外な結果です。

また、分配金の受け取り頻度についても、年一回よりも毎月分配を選択する人が多いという結果です。「年1回12,000円の分配金」「毎月1,000円の分配金」「無分配で値上がりが期待できる」の3択の場合、毎月分配を希望する人が年1回分配を希望する人の2倍近くいました。

しかも、分配金の年間合計金額が少なくても、毎月受け取った方が良いという人も意外に多いのです。上記の例で毎月の分配金額が900円になっても、毎月分配が良いという人が、全体の約4分の1いるのです。分配金が1,200円減っても毎月もらいたいというのは合理的ではありません。

■ 金融リテラシーは高いのに、もらった分配金は貯金する
さらに不思議なのは、分配型投資信託を使う目的が将来の資産を殖やすためという人が多いことです。分配金の使い道の半分以上が「貯蓄」となっています。貯金するなら、分配金を受け取る必要はありません。これも不合理な行動と言えます。

毎月分配という商品の仕組みは、年金生活をされているような方にはありがたいものです。毎月分配自体が悪いのではなく、分配金を毎月受け取る必要の無い人までが、分配金がもらえるというだけで購入していることが、問題だと思うのです。

では、毎月分配型商品について、このような回答をしている個人投資家は金融リテラシーが低いのかというと、そんなことはありません。むしろ、平均よりかなり高いという結果が出ています。

長期投資についても分散投資についても一般のビジネスパーソンに比べ、有効だと考える人の比率が高くなっており、リスクとリターンの関係もきちんと理解している。それなのに、合理的に行動していない。なんともすっきりしない話です。

■ わかりやすいことが大切
金融リテラシーが高いのにも関わらず、毎月分配を指向し、受け取ったら貯金する、という矛盾はどのように考えたら良いのでしょうか?

投資信託の分配金を受け取る理由として「投資の安心感を得る」という回答が多いという調査結果もあります。つまり「分配金が多い=運用が安定している」というように考える傾向があるというのです。

投資信託のリターンは本来、値上がり益と分配金の合わせたトータルリターンで考えるべきです。ところが、分配金はいくらもらえるか簡単にわかりますが、トータルリターンは簡単に知る方法はありません。

投資信託の基準価額は日々変動しますから、リターンが何%になっているかは何となくわかりにくいのです。

つまり、毎月分配型の合理的ではない人気の理由は、

「毎月の分配金が安定した運用を示すわかりやすいシグナルになっているのではないか」

ということなのかもしれません。

元本は、相場の変動で増えたり減ったりしても、長期的には元の水準とあまり変わらないと想定するなら、「安定した毎月の分配金=安定した運用」になります。しかし、当然のことながら、分配金が安定しているからといって運用が安定しているとは限りません。

「分配金が多く、毎月もらえる商品」という選択基準ではなく、「トータルリターンで見て優れた商品」を選択するという方法にシフトしてもらうためには何が必要なのか?

分配金に代わる毎月のわかりやすいシグナルが無いと、この傾向は変わらないのかもしれません。

今回ご紹介した、野尻さんのレポートをご覧になりたい方は下記のリンク先をご覧ください。

フィデリティの「分配型投資信託保有者3000人アンケート」(PDF形式)
http://www.retirement.fidelity.co.jp/pdf/report201005divided.pdf

今回の話のまとめ---------

■ 毎月分配型の投資信託は使い方次第

■ 分配金を貯蓄する人には毎月分配型商品は必要ない

■ わかりやすい情報ではなく、意味のある情報で意思決定しよう


では、また来週・・・。

(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)

内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長

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