2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
昨日から国内メディアの注目テーマは民主党の総裁選に変わってしまいましたが、投資家にとっての注目テーマは引き続き為替です。
<参考>村上レポート 円高が止まらない本当の理由
http://www.monex.co.jp/static/jpmorgan/er/economic_20100825_1.pdf
1995年4月に1ドル=79.75円という対米ドルでの最高値がありましたが、今週は、当時に匹敵する一時1ドル=83円台まで円高が進みました。今後さらに円高が進み、最高値の更新の可能性はあるのでしょうか?
為替の適正な水準というのは、非常に難しいのですが、今後の展開を考えるヒントとして、購買力平価と実質実効為替レートを紹介しておきましょう。
■ ビッグマックインデックスで計算すると、1ドル=85.70円
購買力平価(Purchasing Power Parity、PPPと略します)とは、為替レートが自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決定されるという考え方です。
良く紹介されるのが、英国経済誌「The Economist」が定期的に発表しているビッグマックインデックスです。これは世界中で売られているマクドナルドのビッグマックの価格を調べ、どこで購入しても同じ値段になるように為替レートを逆算しているものです。半分お遊びですが、絶対的購買力平価の考え方がベースになっています。
ドル円の為替レートを実際に計算してみると、直近では1ドル=85.70円と計算されており、現状の為替水準とほぼ同じ水準になっています。
ビッグマックインデックス
http://www.economist.com/node/16646178
購買力平価には、相対的購買力平価というものもあります。これは、基準時時点の為替レートを使って、物価水準の推移から為替レートを計算していったものです。
いつを起点にするか、そして物価のデータとして何を使うかによって、購買力平価の計算結果が大きく変わります。例えば、国際通貨研究所が公開しているデータでは、企業物価を1973年、輸出物価を1990年を起点にして計算しています。
これは1973年が、変動相場制への移行の時期であり、経常収支がほぼゼロだったため、バイアスがかかりにくいと判断したこと。そして輸出物価のデータは連続して遡及できるデータの乖離の小さな時期が1990年だったからと説明されています。
消費者物価指数(1973年基準)を使った計算だと136.71
企業物価(1973年基準)を使った計算だと105.33
輸出物価(1990年基準)を使った計算だと72.16
と計算方法によってかなりのバラツキがあります。
国際通貨研究所が発表している購買力平価の推移
http://www.iima.or.jp/research_gaibu.html
購買力平価は、2国間の為替レートの計算になっており、多面的な為替の動きを捉えにくいという問題があります。例えば、ドルに対して円高になっていても、ユーロに対しては円安といったことは珍しくなく、ドル円だけで円高円安を語るのは為替レートの一部分しか見ていないからです。
■ 実質実効為替レートで見ると円高ではない?
そこで考案されたのが実効為替レートです。実効為替レートとは、為替レートの対外競争力を、単一の指標で総合的に捉えようとするものです。具体的には円と主要通貨間の為替レートを、相手国との貿易ウエイトで加重幾何平均したうえで、基準時点を決めて指数化して算出しています。さらに、それを物価水準を加味して計算したのが「実質実効為替レートです」。
日銀が発表している実効為替レートの推移
http://www.boj.or.jp/type/exp/stat/exrate.htm
実効為替レートは為替の具体的水準を示すものではなく、基準点に比べて円高か円安かを複数の通貨に対して総合的に知ることができる指数です。
実質実効為替レートのグラフを見ると、現状の1ドル=85円レベルは過去の推移では円高でも円安でも無い水準であることがわかります。
これは、過去の日本のインフレ率が他国に比べ極端に低い水準で推移していたことにあります。
■ インフレになると通貨は安くなる
海外各国のインフレ率に比べ、日本のインフレ率が低水準で推移したことで、実質実効為替レートで考えると円安方向に振れたのと同じ効果があります。
これは、極端な例で考えてみるとわかります。例えば、1ドル=100円の時に100ドルのものは、日本円では1万円です。もしこれが、アメリカの物価上昇によって、200ドルに値上がりしたとします。すると、1ドル=50円にならないと1万円で同じものは買えません。つまり、同じ為替水準あったとすると、以前に比べて実質実効為替レートで考えると円安ドル高になっていると考えることができるのです。
とすれば、さらに円高になっても不思議ではないという見方もできます。
■為替レートは多面的に考える
つまり、為替相場はドル円で見ると市場最高水準に近い円高になっていますが、実質実効為替レートで見るとそうでもないということです。
円高になって、外貨投資のチャンスと考える個人投資家の方が増えているようですが、為替に関してはいくつかの分析を多面的に検討し、タイミングを決め打ちしないで投資タイミングを分散させるべきと考えます。
実質実効為替レートは、将来の為替の方向性を予想ためのツールではありませんが、過去の為替水準だけから円高は限界、と単純に考えるのは危険です。
今回の話のまとめ---------
■ 物価を加味した為替の推計は長期的な方向性を知る参考にできる
■ 実質実効為替レートで見ると必ずしも円高ではない
■ 為替レートの予想は難しい。決め打ちよりタイミングの分散が基本
では、また来週・・・。
(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
ツイッター:http://twitter.com/Shinoby7110
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