2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
真っ当な投資書籍というのは、意外に少ないものです。そこでマネックス・ユニバーシティでは、個人投資家に役立つ書籍をおすすめしています。
こんな書籍をおすすめします。
http://www.monexuniv.co.jp/learns/book.html
しかし現実には、将来に対して危機感を煽るような過激な本ばかりが並び、それに影響されてしまう人も多いのです。
では、この本はどうでしょうか?
「日本国債 暴落のシナリオ」
http://www.amazon.co.jp/dp/4806139092
一見するといわゆる「トンデモ本」に分類してしまうような装丁とタイトルですが、短期ではなく、これからの中長期的な資産運用の方向性について考えさせられる内容でした。
■ 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」
まず筆者が強調しているのは、
「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」
という格言です。過去の歴史を知ることで、これからを考えるヒントになるのです。では、歴史はどうだったのか?
国債の金利に関してよく例に出されるのが、イタリア北部にあった都市国家ジェノバです。日本の長期国債金利が、2003年に1%割れになるまで、確認できる歴史上の最低金利だったことで知られています。そのジェノバでは、1619年に1.125%まで下がった国債金利が、実は1620年代に入ると6%前後に急騰しています。
書籍の中では、ジェノバ以外にもオランダ、イギリス、アメリカなどの長期国債の動きも紹介されていますが、これらの歴史からは国債が買われ、超低金利になった後、わずか数年で、急激に金利が上昇するのは珍しくないことがわかります。
■ 日本の現状はどうなっているのか
日本の財政赤字は、現在最悪の状態です。IMFの予想データによれば、国民総生産に対する財政赤字残高は、2010年で日本は、225.1%。イタリア(112.4%)、
アメリカ(90.2%)といった先進国だけでなく、今年財政危機で混乱したギリシアよりも、かなり高いことがわかります。
それにもかかわらず、日本では財政問題が顕在化しないのは、国内の貯蓄だけで財政赤字をまかなうことができる状態であるからです。しかし、この状態がずっと続くとは限りません。
それは、国内で国債を保有している人たちがこれからどうなるかを考えると明らかです。
■ 国債を保有しているのは「従順なヒツジ」たち
日本の国債を保有しているのは、昨年時点で銀行などが43%、生損保等が20%年金が合わせて17%、となっています。つまり銀行に預金をして、保険に入って、年金を払っている真面目な日本人の大切なお金が国債に回っていることを意味します。
海外の投資家が保有しているのはわずか5%。これは、アメリカやドイツでは国債の海外投資家の保有比率が50%前後になっているのとは対照的です。
国内投資家がこのまま国債に投資を続けてくれれば、問題は先送りされ続けることになるかもしれません。エコノミストの上野泰也さんは、数値面での国債暴落の可能性と合わせ、日本人の「従順なヒツジ」度合がこれからどうなるかにも、依存しているとしています。
日本人の「従順なヒツジ」度合い 国債「暴落」シナリオを防ぐ要素として注目http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3078
上野さんは、国債の「暴落」とでもいうようなイベントが突発的に生じるのではなく、ジワジワと悪い金利上昇が発生するシナリオを想定しているようです。
■ 財政が破綻したら、ドル円は1ドル=344円、日経平均株価は3076円?
いずれにしても、将来を確実に予想することはできませんから、最悪のシナリオとして、どんな状況を想定しておけば良いのかを考えてみるのが現実的です。
原典は入手できませんでしたが、今年7月にある経済誌に大手生保系の経済研究所の主席エコノミストの方が試算した数字があります。
2001年のアルゼンチンのデフォルト時と同様の為替や短期金利の変動を前提にしたものですが、仮に日本の財政が破綻した場合、ドル円相場は1ドル=344円、日経平均株価は3076円まで暴落と計算しています。円も株価もざっくり3分の1になるという試算です。
単純計算ですし、日本の財政がアルゼンチンと同じようにデフォルトするかどうかは議論のあるところですが、最悪の事態として頭の片隅に置いておいて、損は無いでしょう。
日本の財政赤字問題は、行政サービスの低下による支出削減、増税による税収増加、では解決できない状態になっています。消費税を上げるとしても20%以上にすることは、現実には不可能です。では、どうなるのか?
私が好きな格言に「賢人はつねに最善を望みながら、最悪を覚悟する」というのがあります。
どのような形であれ、国債市場の変化はいずれやってきます。ただし、それは「いつ」「どのような形で」顕在化するのかは、誰にも予想できないのです。
今回の話のまとめ---------
■ 日本国債の買い手がこのまま永遠に買い続けることは想定しにくい
■ 金融マーケットでは、突然大きな変化が発生することが珍しくない
■ 最善を望みながら、最悪に備えた準備をしておこう
では、良い週末を・・・。
(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
ツイッター:http://twitter.com/Shinoby7110
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