2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
昨日夕方に発表され、市場を動かしたニュースは、格付け会社のスタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(略称S&P)が、日本の外貨建て・自国通貨建ての長期ソブリン格付けをAAからAA-に引き下げ、というものでした。
日本のソブリン格付けを「AA-」に格下げ、アウトルックは「安定的」
http://www2.standardandpoors.com/portal/site/sp/jp/jp/page.article/1,0,0,0,1204864374577.html
S&P社が発表したコメントには、格下げの3つの理由がまとめられています。
<理由1> 日本の政府債務比率がさらに悪化すること
一般政府財政赤字の対国内総生産(GDP)比率は2010年度の概算値である9.1%から、2013年度には8.0%へと若干の低下にとどまると予想。中期的には、大規模な財政再建策が実施されない限り、2020年以前に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の均衡は達成できないと予測。
<理由2> 長引くデフレと高齢化と低成長
物価の下落は、1992年以降の日本のGDPの推移と一致しており、名目ベースで経済規模が同年以降変わっていない。
急速な高齢化が日本の財政・経済見通しを悪化させている。
社会保障関連費は国の2011年予算案の 31%を占めており、2004年度の社会保障制度改革を上回る規模の改革を実施しなければ、この比率は上昇する見通し。生産年齢人口の高齢化と減少により日本の中期的な成長率は約1%と予測。
<理由3> 政治リスク
民主党率いる連立与党が参議院選挙で過半数議席を確保できなかったこともあり、民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けている。
2011年に社会保障制度と消費税率を含む税制の見直しを行うとしているが、大幅な改善は期待できない。
国債発行額の承認を含めた、2011年度予算案と関連法案が国会の承認を得られない可能性さえある。
既に悪化している財政状態の好転の見通しが立たず、今後高齢化がさらに財政支出を高める。同時に、生産年齢人口の減少が成長率を低下させる構造的な問題が存在する。しかし、現状の政権では大胆な改革が期待できないという厳しい見方です。その結果、日本の財政の柔軟性が低下することが問題だとしているのです。
■ マーケットへの影響は限定的
昨日の夕方に格下げが発表されて、まず反応したのが為替市場です。ドル円もユーロ円も1円程度円安方向に振れました。また、本日の日本の株式市場も国債を大量に保有しているメガバンクが大幅に下げ、市場の足を引っ張っています。一方、日本の債券市場は冷静な反応です。
そもそも、日本の格付けに関してS&P社は、1年前にアウトルック(見通し)を安定的からネガティブに変更しています。見直し後、1年経っての格下げというのは、予想されたパターンで唐突なものではありません。あまり、驚いて過剰に反応するニュースでは無いのです。
■ 市場の評価はS&Pではなく、CDSでわかる
日本の信用力に関する、市場の評価を見るには、CDSと呼ばれる金融取引の動きをチェックする必要があります。
CDSとは、クレジット・デフォルト・スワップの略で、一定のコストを支払う見返りに、国や企業の債務に対する信用リスクの肩代わりをしてもらう取引です。国に対する信用リスクが高まるとCDSが大きくなります。保険料のようなものだと思えばわかりやすいでしょう。
昨日の格下げ発表後、日本のCDSは0.80%から0.85%まで若干広がったものの、今年に入ってからの水準とは大きく乖離していません。つまりCDSマーケットも今回の格下げを冷静に見ているということです。
■ 格付けが変わっても、事実は何も変わっていない
格下げになったからといって、現状は、昨日と今日では何も変わっていません。
日本の財政問題を地震に例えれば、格付機関は地震予知機関のようなものです。格付引き下げとは、地震の来る確率が高まりました、とアナウンスをしたのと同じで、だからと言って地震の来る可能性が高まる訳では無いのです。
格付機関というのは、マーケットの実態を後追いするように格付けを見直すこともあります。発表される内容には一定の注意を払わなければなりませんが、格付を投資判断の材料にすると、出遅れるリスクもあるのです。
■ 問題が顕在化する前に、入念な準備を
日本の財政悪化によるリスクは、円安、株安、債券安のトリプル安です。その時期と、レベルがわからないとしても、問題が顕在化する前にやれることはやっておくべきです。
実は、財政問題を抱えている国は、日本だけではありません。他の先進国もレベルには差があるものの、同じ問題に悩まされています。そのリスクがどのタイミングでどのように顕在化するのかは、予想するのが困難です。
資産というのは、絶対に安全な保管場所というのは存在しないのです。現金も金(ゴールド)も、価値が下がるときには安全資産にはなり得ません。
今回の格下げで、改めて認識すべきは、投資の基本である分散の徹底です。どの市場にも潜在的な問題があって、それがいつ顕在化するのかは、どんなに優秀な投資家であっても予想できないからです。
<参考> 5分で分散投資が学べる動画 マネックス キャンプ
最新!長期分散投資入門「60歳までに1億円つくる術」第1話
http://camp.monex.co.jp/player/#s/camp/step4/3_1_007
分散投資の考え方
http://camp.monex.co.jp/player/#s/camp/step4/3_1_001
資産配分の具体例
http://camp.monex.co.jp/player/#s/camp/step4/3_1_002
今回の話のまとめ---------
■ 格付機関よりもマーケットの反応をフォローする
■ 今回の格付変更だけではなく、今後のトレンドを考えてみることが重要
■ 分散を徹底させることでしか、資産下落リスクへの対応はできない
では、また来週・・・。
(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
ツイッター: http://twitter.com/Shinoby7110
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