2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
投資信託の選択基準については様々な意見がありますが、ネット証券で取引している個人投資家の方は、コストにこだわる傾向が強いと思います。
特にインデックスファンドに関しては、販売手数料がかからないノーロードが一般的ですし、信託報酬も0.5%以下のファンドも登場し、1%を超えるものは、割高なものとして見なされています。
一方で、銀行や対面型の証券会社では、未だに販売手数料のかかる、高信託報酬のファンドが売れていると聞きます。到底理解できるとは思えないような、複雑な仕組みの商品を見ると、どうして購入するのか理解に苦しんでしまいます。
このように日本においては、投資家の金融リテラシーには個人差があるのです。
■ 投資家と金融機関が納得できる手数料水準とは?
金融商品というのは、コストが低ければ低いほど、投資家にはメリットがありますが、金融機関の利益は減ってしまいます。つまり、2者は利害が対立した状態になっているのです。
2者の利害が同じ方向になるのは、投資信託で言えば、保有期間と保有金額を長く大きくしていくという方法しかありません。投資信託のクオリティに満足した投資家が保有期間を長くすれば、金融機関の受け取る手数料も多くなりますし、保有金額に比例して信託報酬も大きくなるからです。
コストが下がれば、投資家にとってメリットがあるのは事実ですが、金融機関もビジネスをやっている訳で、利益をあげなければなりません。やみくもにコストを下げても、会社としての経営が成り立たなければ最終的には運用が継続できなくなってしまい、投資家にとってもデメリットになってしまいます。
運用会社を例に考えてみましょう。
例えば、投資信託の信託報酬は残高に対してかかってきますが、ファンドの残高が1億円だとすると、信託報酬は1%でも年間100万円に過ぎません。しかも信託報酬は販売会社、運用会社、管理会社の3者で受け取るため、運用会社が受け取る信託報酬は、全体の半分以下というのが通例です。これでは、金融機関の社員1人分の人件費すら賄えません。
運用会社には、ファンドマネージャーやコンプライアンス、バックオフィスなど、最低でも20名程度の人員が必要です。個別差はあっても、恐らく残高で1000億円くらいにならないと、会社経営としては成り立たないと思われます。
1000億円で信託報酬受取比率が0.5%とすれば、年間5億円。その中からオフィス賃料や人件費、システム、事務コストなどを賄っていく。これでもギリギリだと思います。
■ 純資産が増えないとコストは下がらない
これからわかることは、投資信託における投資家の運用コストを下げるには純資産が増えなければならないということです。
例えば、残高が100億円にも達しない運用会社に手数料を下げろと求めるのは、経営に支障をきたし、満足できる運用成果が実現できない可能性があるとも言えるのです。
コストの安い投資信託は、残高が大きくなければ実現できません。投資信託のコストの前に、日本ではナゼ良質なファンドに残高が積み上がらないのかを考えてみる必要があります。
例えば、下記のファンドのようなトラッキングエラーの極めて小さい高品質のインデックスファンドがあるのですが、残高を見るとその数字に驚きます。
残高が10億に満たない良質ファンド その1
http://www.monex.co.jp/pdf/fund2/M817.pdf
残高が10億に満たない良質ファンド その2
http://www.monex.co.jp/pdf/fund2/M818.pdf
投資信託の残高が積み上がらないファンドでは、コストを下げたくても下げることができない。それどころか、利益をあげることすらできないのです。(逆に残高が大きくなっても手数料を下げないファンドもありますが・・・)
金融機関と個人投資家の間で納得できる手数料水準が実現できるようになるには、投資信託がもっと個人金融資産の運用商品として根付き、良質なファンドに資金が集まるようになる必要があると思います。
そんなマーケットが育つまでには、残念ながらまだ時間がかかりそうです。
今回の話のまとめ---------
■ 投資家の金融リテラシーは個人差が大きい
■ 投資家が残高を増やさなければ、コストは下げられない
■ 投資家と金融機関が納得できる手数料水準を模索すべき
では、また来週・・・。
(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
ツイッター: http://twitter.com/Shinoby7110
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