第 177 回 はじめに証券価値ありき

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第 177 回 はじめに証券価値ありき

<質問>
岡本さんは、NYにいらした期間が長いかと思いますが、周りの方の投資方法で参考になった点があれば教えてください。

<回答>
今回は、I-O ウェルス・アドバイザーズ株式会社の岡本和久が回答します。
1980年だったと思います。当時、大手証券のニューヨーク店で機関投資家向けセールス兼アナリストをしていたのですが、私のもとにアメリカ人のファンド・マネジャーから電話がありました。彼は日本株投資では先駆者的存在で、その分析力、先を見通す能力に加え、腹の据わった投資態度で有名な人でした。「いったい、何だろう」と思いながら電話をとると、彼は「いま、日立っていくらぐらい?」と聞いてきたのです。「なんだ、株価も知らないのか・・・」と思いながら、株価は300円ぐらいであることを話しました。当時、同社株は万年低位株として放置されており、しかも、誰もそれを不思議に思っていなかったのです。私は同社が「業績は良く増配の見込みである」ことなどを告げました。その後、彼は大量の日立株を買い付けたのです。当時としては目玉の飛び出るような数百万株単位での買付でしたね。

そして、日立株はその後、上昇に転じたのです。翌年の夏には上昇のピッチがどんどん加速しました。ちょうど900円を超えたところでした。そのファンド・マネジャーは全持ち株を手放したのです。マーケットでは「日立1500円説」が唱えられていたときです。「あれ、売っちゃうの?」と思ったものです。果たして日立株は8月に947円を付け、それをピークに500円まで暴落しました。まさに、名人芸。心の底から「カッコいい!」と思いました。

彼は日立の価値は、長年の経験と分析結果から300円なら安いが900円では高いということがわかっていたのだろうと思います。マーケット参加者のほとんどは、自分が注目している株の株価がいくらかは知っています。しかし、本来の価値が分かっている人は少ないのです。彼は企業の価値はわかっていたが、株価は私が教えるまで知らなかった。この経験は株式というものの本源的価値を知ることがいかに大切かを私に教えてくれました。私の証券アナリストとしての初期の経験としては原点となるようなできごとでしたね。

当時、私のいた証券会社のニューヨーク店にはジェームス・ローゼンワルドという老アナリストがいました。証券分析の父、ベンジャミン・グレアムが最初に採用した部下であり、1929年の大暴落のときにはすでにアナリスト(当時は「統計家」と呼ばれていたそうです)として活躍していたというのが彼の自慢でした。電卓などが普及していない時代であり、いつも胸ポケットに計算尺を持ち歩いていましたね。彼は私を捕まえては証券分析の基本を散々、教えてくれたものです。ベンジャミン・グレアム流のバリュー・アプローチそのものでした。その意味では私はグレアムの孫弟子ということになるのかも知れませんね。

1960年代に日本株の成長性と割安性を発見し「シンデレラ・ストック」として米国の機関投資家を説いて回っていました。私が出会った当時は損保株の割安性に注目していました。損保株が保有しているポートフォリオを時価で評価すると、株式市場での評価は実体価値の何分の一でしかないというのです。果たして1980年代の後半には損保株の上昇が始まりほとんどが数倍高をしました。彼の場合もまず、証券の価値があり、その価値との比較において株価を判断しているのです。いま、彼がよく言っていた言葉を改めて味わってみると本当に含蓄が深いですね。例えばこんなことを言っていました。

「道端に金貨が落ちていたとしよう。最初に通った人は気付かずに通り過ぎるかもしれない。二人目もそうかも知れない。でも、本当に価値のあるものが永久に見逃されることはない。だから本当の価値を見つけることが大切であり、それが証券アナリストの仕事なのだ」

日本株式市場は長い低迷を続けています。東証1部のPBRは1倍、東証2部は0.6倍、1部2部合計の約三分の二がPBR1倍割れという状態。日本株式という金貨の存在にみんなが気付くのはいつの日なのでしょうね。

コラム執筆:
岡本 和久
ファイナンシャル・ヒーラー(R)
CFA 協会認定証券アナリスト (Chartered Financial Analyst)

I-O ウェルス・アドバイザーズ株式会社 代表取締役社長

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