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Q 急激な円高が進んでいますが、為替市場の見方や、どのように投資をしたら良いのかを教えてください。
私もかつて為替のディーリングに従事したことがありますが、結論から言えば、短期的な予測はほとんど意味がありません。うまく当ってもそれは偶然。偶然性に賭けているだけなので、いくらやってみても練習によって勝率が上がるというような性格のものではないのです。ですから、為替の短期売買で収益をあげようというのは、私はあまりお勧めしていません。
毎日、変動している為替市場ですが、最初に大きなトレンドをつかんでおくことが大切だと思います。人類が誕生してから、大きな技術革新や産業革命によって推し進められている潮流は「グローバル化」ということではないかと思います。特に20世紀の終りの10年で冷戦構造が終結し、情報革命が加速したことで世界の経済は急速にグローバル化をしました。
しかし、通貨は戦後の体制がそのまま続いています。世界経済はグローバル化しているのに、なぜ、国ごとに異なった通貨があるのか。なぜ、アメリカという一国の通貨が世界の基軸通貨の役割を果たしているのか。やはり、現在の国をベースにした為替制度が時代遅れになってきているのは否定できないように思います。
まだ、何十年もかかることだろうと思いますが、いずれ世界共通の通貨が創造されることになるのでしょう。アメリカという一国の通貨、ドルはその役割を終え、新しい共通通貨にその役割を譲ることになるだろうと思います。いまはその過渡期です。ですから、長い目で見ればドルの基軸通貨としてのプレミアムは剥げ落ち、なだらかに下落をしていくことになるでしょう。ユーロは大きな方向性を目指してのひとつの実験です。まだ、色々と修正が行われていくとは思いますが、共通通貨に向けての一里塚であるといえるでしょう。
現在、基軸通貨であるドルが急激に安くなるのは、どの国にとっても決してメリットはありません。ほとんどの国がかなりのドルを資産として保有しており、ドルが安くなるとそれらが目減りするからです。政府に対する勢力として投機筋がドルを売り崩そうとすることも考えられますが、国際協調によって、手のつけられないドル暴落、つまり、ドルのフリーフォールは回避されるのではないかと思います。
Q 長期トレンドはわかりました。それでは、ここ数年の状況はどう考えればいいのですか?
サブプライム・ローンの問題、リーマン・ショックなど金融危機が世界を襲ったのは記憶に新しいところです。各国政府は最悪事態を回避するために大胆な金融・財政政策を打ち出しました。それは、それなりには効果があったのですが、一方で各国は膨大な財政赤字を抱えることになりました。金融危機が、財政危機に姿を変えたのです。いわば国の経済に大きな穴が開いてしまった訳で、これを塞ぐためにどこの国も輸出で儲けようとしています。つまり、外国の富で自国経済の穴を塞ごうというのです。
アメリカは輸出倍増計画などを出していますし、ドイツもユーロ安を背景に輸出主導の経済成長を達成しつつあります。中国も当然、輸出による成長維持が課題です。輸出を促進するために、少なくとも当面、どの国も自国通貨安を容認するというインセンティブが強くなっています。
翻って日本は、1980年代のトラウマがあるのかも知れません。急激な円高は困るということはあっても、あまり、あからさまに円安・輸出振興という政策は強調されていません。そのスタンスの違いが最近の円高になっているのではないでしょうか。ある意味、最近の急激な円高は「押し付けられた円高」だともいえるのです。各国の景気回復が遅れるほど、輸出をテコに成長をしようというインセンティブがさらに働き、その分、円高になることは考えられます。
確かに円高は短期的には日本企業の輸出競争力を弱めることになり、収益の下方修正などが必要になることもあるだろうと思います。また、デフレ色を強めるという面もあります。しかし、長期的には海外の優良な企業を安く買収することもでき、グローバルな生産・販売体制の再構築がしやすくなるというメリットもあります。円高をメリットとして活用せず、苦しい環境を嘆き悲しむだけの企業は今後、淘汰されていくということもあるでしょう。円高は日本の産業構造を大きく変化させていくことになります。考え方によれば円高によって日本企業は長期的な生き残り、勝ち残り戦略を模索することを突きつけられているのではないかと思います。円高は、日本が、そして日本企業がもっと、もっとグローバル化を進めることを催促しているのでしょうね。
Q 為替に投資をする場合、どのような方法が良いのでしょうか?
FXとか、外貨建てMMF、外債を組み入れた投資信託などが普通、外国為替投資の商品として頭に浮かびます。それは確かにそうなのですが、外国株式投資も為替に投資をしていることだということを覚えておくべきです。債券の場合、約束された外貨建てキャッシュフローを円に交換して受け取るので、為替レートの変動をモロに受けます。しかし、株の場合は違います。尾藤峰男さんの「いまこそ始めよう『外国株』投資入門」に面白いデータが紹介されています。ニューヨーク・ダウの1993年初から2009年末までのリスクは15.0%です。同じ期間の円の対ドルレートのリスクは11.1%です。ところが、円に換算したニューヨーク・ダウのリスクは17.6%なのです。つまり、円で外国株を買えば、アメリカ株と為替の両方のリスクを取ったことになるのですが、実際には株式リスクより2.6%余分のリスクをとるだけで済んだということです。
なぜ、そうなるかと言えば対ドル円レートの変動がアメリカ企業に影響を与え、株価の変動が為替変動のかなりの部分を吸収したということなのです。ただ、全体としてのリスクは高いので、投資金額は抑さえておくことが必要です。例えば、日本株と外貨建債券投信のポートフォリオを持っているのであれば、その一部を外国株にすることは意味のある為替投資の方法ではないかと思います。どんなときでもバランスの良い分散がカギだということです。
コラム執筆:
岡本 和久
ファイナンシャル・ヒーラー(R)
CFA 協会認定証券アナリスト (Chartered Financial Analyst)
I-O ウェルス・アドバイザーズ株式会社 代表取締役社長
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