第 213 回 日本ではもうインフレは起きない?

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第 213 回 日本ではもうインフレは起きない?

resize_Mr.Suzuki_jp.jpg<質問>「インフレに備えて資産運用したいとは思うのですが、インフレの兆しは何でわかるのですか?」

<回答>今回よりJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社の鈴木英典氏が回答します。

ご質問、ありがとうございます。インフレの兆しは何でわかるかということですが、様々な方法があると思います。もっとも、直接的な方法としては、各種公的機関や研究所、金融機関等が発表している経済見通しが挙げられます。これらの資料では、プロのエコノミストが、今後、どの程度物価が変動するかを予想していますし、その理由や背景まで説明していることも多いので、最も使いやすい信頼できるものだと思います。ただ、難点は、通常、四半期に1回程度しか更新されないため、今回の大震災のように突発的な出来事によって、状況が大きく変化した場合には、参考にし難いという難点があります。そこで、常に、かつ、簡単に入手可能な参考指標として、長期金利が挙げられます。

一般的に、長期金利=実質金利+期待インフレ率となっており、その中で、実質金利は比較的安定しているので、将来のインフレ見通しに関する市場のコンセンサス=期待インフレ率は、長期金利の動きに反映されます。つまり、長期金利の上昇⇒中長期的でのインフレ懸念の増大、長期金利の低下⇒中長期でのインフレ懸念の後退(あるいは、デフレ懸念)となるわけです。

実際、1970年代には、石油ショックの影響で10%を越えるインフレが発生しましたが、この時、1950年代には2%台だった米国の長期金利は、1960年代には7%台に、さらに、1970~80年代には、10%を越える水準にまで上昇しています。また、日本でもインフレ率が4%程度まで上昇した1990年代初めには、長期金利も8%程度まで上昇しています。

このような観点から、今の日米の長期金利を見てみますと、日本では1.3%台、米国でも3%台と、各々、過去20年平均の2.39%、5.26%に比べて、非常に低い水準にあり、ともに将来激しいインフレが起きる可能性は低いことを示唆しています。

しかしながら、「こんなに原油価格が上昇しているのに、本当に大丈夫なの?」と心配になる方も多いと思います。確かに、現在の原油価格は、1990年代に比べると10倍程度の水準になっており、1970年代から1980年代にかけての石油ショックに匹敵する上昇規模になっています。しかしながら、今は、原油価格の上昇が他の物価に波及し、消費者物価指数の上昇率が20%を越え(狂乱物価)、物価上昇を懸念した消費者が買占めに走り(トイレットペーパー騒動)、社会全体が大混乱した1970年代の状況とはまったく違い、日本は依然デフレから脱却できていません。

これは、エネルギー源が原子力、風力、太陽光等に分散されたことや、社会全体が省エネ体質に変換されたことが主因だと思われますが、同時に、各国中央銀行のインフレ抑制に対する強い姿勢とその対応方法を金融市場が強く信任するようになったことも大きく影響しています。つまり、それだけ、通貨の番人としての中央銀行への信頼度が、この30年間で高まったということです。原油価格が大幅に上昇しながら、長期金利が低位で安定推移していることは、金融市場(および、その参加者)が、「原油を始めとした一部の商品価格が上昇しても、中央銀行の適切な対応により、物価全体としての上昇には繋がらない」と判断していることを示唆しています。

ちなみに、株式リターンはインフレとの連動性が高いとよく言われますが、これは、株式は、長期的には、インフレ率以上のリターンが期待できるということで、短期的にインフレ率と連動するというわけではありません。実際、物価が大幅に上昇した石油ショック時(1973年から1981年)には、米国の株式の上昇率は、物価の上昇率を下回り、年率で4%程度、実質的な価値を失っています。これは、ある意味当然のことで、物価上昇率が一定水準を越え、経済活動が低迷し、社会が混乱しているときに、健全な企業活動が行われるはずがないからです。

実際、米国株式のリターンとインフレ率の関係を見てみると、インフレ率が2~3%程度の時に株式リターンは最も高くなり、インフレ率が、それより低くても、高くても、株式リターンは低下するという、緩やかな傾向が確認できます。ということは、デフレに苦しむ日本の物価が緩やかな上昇に転じることが望ましいのはもちろんですが、米国においても、今より、もう少し物価水準が安定的に上昇した方が、株式市場にとっては、よりよい環境といえるわけです。
何事も、過ぎたるは、及ばざるが如し。投資も同じです。


コラム執筆:
鈴木英典(すずき・ひでのり)

JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社
投資戦略ソリューション室長

JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、
連載コラム「投資耳(ミミ)」「資産運用の井戸端トーク」を執筆。

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