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<質問>新興国投資を増やしたいと考えています。中国の利上げや人民元の切り上げ予測というニュースを見ると尻込みします。やめたほうがよいでしょうか?
<回答>ご質問ありがとうございます。JPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木が回答いたします。
投資判断とは、いつも悩ましいものですから、今日は、そんなときに役立つ判断の座標軸をご紹介します。それは、「外部環境=市場環境」と「内部環境=投資家自身の状況」です。とかく投資判断というと「外部環境」にばかり気を取られ、「内部環境」が疎かになりがちですが、適切な投資判断には、この両方とも不可欠です。そこで、今回は、新興国投資を題材に、このような投資判断の座標軸のお話をしましょう。
最初に、「外部環境=市場環境」の座標軸ですが、市場環境には、大きく分けて、「短期循環的な動き」と「長期構造的な動き」があります。「短期循環的な動き」とは、景気循環のように、同様の動きをサイクル的に繰り返し、いずれ元に戻るタイプの変動のことです。一方、「長期構造的な動き」とは、経済の底の方で、ゆっくりと進行する変動で、元に戻らないことも多々あります。潜在成長率、基礎的物価上昇率の変化等が挙げられます。この「長期構造的な動き」が変わる影響は甚大なのですが、表に出てこないため、市場が、その変化に気がつくのが遅れがちな点に注意が必要です。
この2つの両座標軸に沿って、新興国投資を考えてみますと、景気回復度合い、中央銀行の緩和政策から引締政策への変更度合いの両面から見て、新興国の「短期循環的な動き」は先進国よりも先行しており、その意味において、より慎重な対応が求められそうです。実際、世界金融危機後の株価の大底からの上昇率を見てみると、先進国が約60%、新興国が110%と、新興国の方が2倍近くも上昇しています。
一方、「長期構造的な動き」においては、依然、新興国投資に、かなり強い追い風が吹いているようです。ちょっと、昔を振り返ってみますと、18世紀までの世界経済は、半分が中国とインドで、今の新興国全体が、実に、世界経済の80%を占めていました。しかし、その後の産業革命の影響で、「長期構造的な動き」が変わり、今の先進国のシェアが急伸、20世紀末には、凡そ70%を占めるようになりました。
しかし、どうやら、ここで、再び、「長期構造的な動き」において、200年ほども続いた、今の先進国優勢の流れが、今の新興国優勢の流れに変わったようです。その証拠に、2000年代以降、1990年代とは打って変わって、新興国が経済成長率においても、株価上昇率においても、明らかに優位な状況が続いています。200年も続いたトレンドが転換したわけですから、今回の新興国優勢の新たな流れも、相応に長い期間継続する可能性があります。要するに、新興国投資を、「外部環境=市場環境」から見ると、「短期循環的な動き」には、やや心配な材料が出てきたものの、「長期構造的な動き」では、支援材料がしっかりと確認できるということになります。
次に、「内部環境=投資家自身の状況」ですが、内部環境は、「既に投資した金額と、これから投資できる金額のバランス」と「投資を継続できる期間」の2つに分けられます。この内部環境は、当然ながら、投資家1人1人で違いますが、一般的には、「これから投資する金額」が多いほど、そして、「投資を継続できる期間」が長いほど、積極的な投資が可能だと考えられます。したがって、新興国投資の「長期構造的な動き」におけるプラス面を勘案すると、投資資金に、まだ、ある程度余裕があり、投資期間を比較的長期に見込める投資家の方であれば、新興国投資は、有力な選択肢の一つだと考えられます。
私の経験からすると、長期投資に成功するコツは、「最高のタイミングは狙わず、最悪のタイミングを避けることに注力する」ことです。投資とは不思議なもので、欲張って最高のタイミングを狙うと、最悪のタイミングに陥るリスクが高まるようで、最悪のタイミングを避けることに集中することが、致命傷の回避、そして、長期安定的な投資の継続に繋がると考えられます。新興国投資に関していえば、少なくとも最悪のタイミングではない可能性が高いと考えられるわけですから、このような外部環境と内部環境をよく勘案して、無理のない範囲内で投資を継続、あるいは積み増すのが適切だと考えられます。
ちなみに、今回は、新興国株式を念頭に話を進めましたが、新興国に興味はあるが、株式投資には、ちょっと腰が引けるという方は、新興国債券という投資方法もあります。先進国に比べて相対的に高い利回りが魅力的な資産です。こちらも、ぜひ、検討されてはいかがでしょうか。
コラム執筆:
鈴木英典(すずき・ひでのり)
JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社
投資戦略ソリューション室長
JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、
連載コラム「投資耳(ミミ)」や「資産運用の井戸端トーク」を執筆。
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