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<質問>米国の金融緩和政策は6月末で終了、しかし金融緩和は継続とききました。具体的に何が変わって、日本のマーケットにどんな影響があるのでしょうか?
<回答>ご質問ありがとうございます。JPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木が回答いたします。適切な投資判断には、正確な理解が不可欠ということで、まず、米国の中央銀行(以下、米連銀)が、どのような政策を進め、4月27日の会合で何を決めたのかをおさらいしましょう。
話は、2007年のサブプライム・ショック、2008年の世界金融危機にまで遡りますが、このような未曾有の危機に際し、米連銀は、迅速、かつ、非常に積極的に金融緩和政策を推進しました。その一つが、政策金利で、ほぼゼロ%まで急速に引き下げられました。そして、さらなる措置として、2010年秋に、QE2と呼ばれる金融緩和措置を追加的に導入しました。このQE2は、6000億ドルもの長期国債を米連銀が購入することで、市場に資金を提供するという量的金融緩和政策です。そして、今回、米連銀が決定したのは、このQE2を「予定通り」6月までに「完了」し、このような、さらなる量的緩和政策=QE3は実施しないということです。
つまり、今回の決定は、あたかも米連銀が金融緩和政策全体を「終了」するようなニュアンスで伝えられていますが、正確には、並列的に実施されていた複数の金融緩和政策の中の一つだけを「予定通り完了」するということで、それ以外は継続するということです。実際、米連銀は、最重要な金融政策で、現在ほぼゼロとなっている政策金利の誘導目標を「長期間異例に低水準に据え置く方針」を再度確認しています。したがって、米連銀による超金融緩和政策は、今後も相当の期間継続するわけです。
そもそも米連銀の政策目標は2つあり、それは物価の安定と雇用の最大化です。米連銀は、見方によっては相反する2つの目標のバランスをとりながら、金融政策を決めなければなりません。今回、QE3の実施見送りに際し、米連銀は、このような枠組みの中で、物価の安定だけではなく、雇用の最大化にも十分配慮したはずで、この決定自体が、逆に、米連銀が景気回復に自信を強めてきた証とも考えられます。連銀としては、「QE3までやらねばならない事態が避けられて良かった。」といった感じではないでしょうか。まさに、「予定通り」というわけです。
それでは、今回の判断は、世界の各市場に、どのように影響するのでしょうか?27日の決定以降、一番大きな動きとなったのは商品価格の下落です。例えば、原油価格は10%程度下落しました。このような動きは、QE3実施→過剰流動性供給→商品価格のさらなる上昇 というシナリオを描いていた一部の市場参加者の期待の剥落を反映した動きでしょう。米連銀は、今後も、超金融緩和政策を継続するとはいっているものの、このような市場の動きは、今回の決定、非常に長い時間軸でみれば、超金融緩和措置の出口に向けた第一歩だということも示しています。
一方、この決定は、地元、米国の株式市場には、どのように影響するのでしょうか?それは、金融政策上の判断が、経済環境に適合しているかどうかのバランスの良否で判断されるべきですが、今回の場合、景気の緩やかな回復という経済環境を的確に反映した措置だと考えられます。つまり、経済環境の正常化に伴って、異常事態向けの措置が徐々に解除されるのは、自然な流れであり、この自然な流れが経済にとって最も効果的な政策ともなるわけです。
逆にいえば、米連銀は、「QE3まで踏み込まなくても大丈夫な経済環境になった!」と判断したからこそ、今回の決定に至ったわけです。実際、長期の金融緩和の後、連銀による政策金利の引き上げ開始から、米国株がピークを打つまでの期間を、過去の実例で見てみると、1994年の利上げで約6年、2004年の利上げで約3.5年となっており、利上げと株式上昇が相当長期間並走しています。つまり、利上げ=株式市場の下落ではなく、重要なのは経済環境に適合した金融政策がとられているかという点なのです。
その意味で、今回の措置は、景気の緩やかな回復継続に非常に適合した政策だと考えられますので、懸念材料とは考えにくいものがあります。しかも、今回の判断は、超金融緩和政策を「終了」ではなく、その中の一つを「予定通り完了」するだけで、超金融緩和政策自体はしっかり維持されているわけですから、必ずしも株式にとって、ネガティブな要因とはいえません。
それでは、次に、ドル円為替レートへの影響です。ポイントは何と言っても、2007年から続いている円高トレンドがどうなるかでしょう。今回の円高トレンドは、サブプライム・ショックが発生した2007年から始まっていますが、この2007年は、まさに米連銀が利下げを開始した年でもあります。その翌年、2008年にはリーマン・ショックが発生し、米連銀は、さらに超金融緩和政策を推し進めますが、これによって、円高トレンドも、さらに鮮明になりました。
つまり、米国の超金融緩和政策と円高トレンドは密接に関連しているということです。今回の措置は、複数の金融緩和政策の中の一つの「完了」ではありますが、QE3の見送りは、まだまだ、先のことではあるものの、方向的には、超金融緩和政策の出口に向けた第一歩でもあります。このような捉え方をすれば円高圧力の低減に繋がる可能性が指摘できます。過去を振り返ってみても、米国の金融政策の転換が円高トレンドの反転に繋がった例はいくつもあります。
それでは、最後に、これら商品市場、米国株式市場、ドル円為替レートの動きが、どのように日本株に影響するのでしょうか?まず、商品市場の下落ですが、これは短期的な反応かもしれませんが、基本的には、日本株にプラスに作用すると考えられます。なぜなら、今回の米連銀の判断によって、過剰資金流入によって膨らんでいた商品価格が、実態にあった水準に、適切に調整されれば、それは企業活動の活性化=利益の拡大に繋がると考えられるからです。
次に、米国株式市場ですが、最近の先進国株式市場間の連動性の高さを考えると、もし、米国株の上昇が継続すれば、日本株も上昇する可能性が高いと考えられます。さらに、その前提ではありますが、米連銀の想定通り、世界景気の緩やかな回復が継続すれば、それは日本株によってプラスの材料となります。そして、ドル円為替レートにおける円高圧力の低減ですが、これは輸出企業への追い風として、日本株のプラス要因になる可能性が高いといえます。つまり、全体としてみれば、プラス要因だと考えられるわけです。
最後にまとめますと、様々なメディアで、今回の米連銀の決定を、金融市場、特に株式市場へのネガティブ要因と見て、警戒を強める向きが少なくないようですが、今回の措置が緩やかな景気回復の継続という経済環境を適切に反映した判断であるならば、決して悲観的に考える必要はないと思います。連銀の政策によって景気にブレーキがかかるなどと言うことは、まだまだ、先の話ではないでしょうか。
コラム執筆:
鈴木英典(すずき・ひでのり)
JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社
投資戦略ソリューション室長
JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、
連載コラム「投資耳(ミミ)」や「資産運用の井戸端トーク」を執筆。
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