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<質問>「新興国ファンドを保有しています。金利引き上げで金融引締感がある中国やインドに投資をしているものは、一度換金したほうがよいでしょうか?」
<回答>ご質問ありがとうございます。JPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木が回答いたします。
確かに、ご指摘のとおり、インフレ懸念の高まりから、中国、インドともに、現在、政策金利を引き上げています。話は、ちょっと遡りますが、2008年の世界金融危機に際して、この両国も、先進国と同様に緊急避難的に大幅な金融緩和措置に踏み切りました。しかし、その後の展開は、この両国と先進国で大きく異なりました。もともと成長力の高い両国は、経済の回復も早く、もたつく先進国を尻目に、2010年の早い時期に、金融緩和措置を徐々に解除し始めました。中国は2010年1月から預金準備率を、また、2010年10月からは政策金利を引き上げ始めました。一方、インドが、政策金利を引き上げ始めたのは2010年3月です。つまり、両国が金融緩和措置の解除を始めたのは、既に1年以上も前のことなのです。
したがって、その後、両国は、継続的に引き締め政策を進めていますが、株式市場は、このような金融政策は、すでに十分織り込んでいると考えられます。言い方を変えれば、このような緩和から引き締めへの金融政策の変更を織り込んでいたがために、ここ1年ばかりの両国の株価は、ほぼ横ばいで推移してきたということです。そして、今は、まさに、従前より進めてきた、これらのインフレ抑制策が効果を発揮する時期だと考えられます。
実際、インドの卸売物価指数や中国の消費者物価指数は、水準は高いながらも、徐々に落ち着きを取り戻しています。また、原油価格も5月に入ってから10%程度低下し、物価上昇も、この秋ぐらいにはピークアウトするといった予想も増えてきています。このような動きを背景に、両国の金融引き締め政策も終盤に差し掛かっているとの見方もあり、景気循環的側面から両国の株価を見れば、これまで重荷になっていたインフレ懸念、金融引き締め政策、企業の業績悪化懸念が、今後、徐々に薄れ、好材料に転化し始めるものと考えられます。実際、現在の両国株式市場のバリュエーションは、過去の数値 (具体的には、過去5年のPBR、PER)と比較すると割安になっており、売るには惜しい水準です。
さらに、足元の環境から、中長期的な見通しに目を移せば、生活水準向上に伴う消費の拡大やインフラ整備を中心とした投資等によって、引き続き高い経済成長が見込まれ、依然として、ポジティブな材料が多い状態です。例えば、この3月に、中国は、今後5年間の経済目標である「第12次5ヵ年計画」を採択しました。実質経済成長率の目標は、前回の年平均7.5%から7%にやや引き下げられましたが、同時に、今までの「量」を重視した経済成長重視型から、国民生活全般の改善に重点を置く、「質」も重視した経済成長モデルへの転換が謳われています。つまり、新興国も、成長の速度を競う段階から、そのバランス、継続性(サステナビリティー)を重視する段階へと前進しているのです。このように、この両国は、各々の経済発展レベルに合わせて、成長する分野は変えながらも、今後も、中長期的に、高い成長が見込まれるということです。
また、新興国の中には、この両国以外にも、魅力的な国々がたくさんあります。例えば、インドネシア。インドネシアでは、中国、インド、米国に次ぐ世界第4位の人口大国で、今後、所得水準の向上を背景に個人消費が拡大し、巨大な消費圏に成長する国として期待が高まっています。また、エネルギー、鉱物、食料など幅広い種類の資源を有しており、資源大国の横顔も併せ持っており、今後は、電力、水道などのインフラ整備への投資が活発化することが見込まれています。そして、高負債、高インフレ体質からの脱却と信用市場の発展という同国の構造的変化が期待できるトルコや為替安からの追い風が期待できる韓国の注目度も上がっています。
これまでに得た利益を確定するために保有するファンドを一度売却するという選択肢はありますが、新興国の今後の成長継続にはまだ期待できるというのが個人的な見解です。したがって、中長期的観点からの投資を考えているのであれば、このような魅力的な国々からなる新興国ファンドは継続保有してもいいのではないかと思われます。
コラム執筆:
鈴木英典(すずき・ひでのり)
JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社
投資戦略ソリューション室長
JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、
連載コラム「投資耳(ミミ)」や「資産運用の井戸端トーク」を執筆。
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