第255回 2つに分けられる為替の動き~何が円高円安を決定するか?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

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第255回 2つに分けられる為替の動き~何が円高円安を決定するか?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

<質問>

2月の日銀の追加緩和を契機に進んだ円高修正が最近、一服してしまっています。今後、外貨建ての投資を考える上で、どのように為替を考えればいいでしょうか?

<回答>

ご質問、どうもありがとうございます。今回は、JPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木英典がお答えします。

市場の動きを考える際には、「長期のトレンド」と「中短期の循環」の両方から検討することをお勧めしていますが、為替レートも例外ではありません。

為替レートの場合、「長期のトレンド」は、両国の物価上昇率の差によって決まる購買力平価(注)に沿う傾向があります。これを米ドル/円に当てはめると、両国の消費者物価上昇率(前年比)の差の2~3%程度、現在のレートで見ると2円程度ずつ、毎年円高方向に動くことになります。この「長期のトレンド」は、日本がデフレから抜け出せず、物価上昇率で米国>日本の構造が変わらない限り、継続する可能性が高いと考えられます。

しかし、一方の「中短期の循環」は、まったく別の枠組みです。しかも、年間2円程度の「長期のトレンド」に対して、「中短期の循環」は、年間で10円~15円程度動くことも珍しくありませんので、実際の運用実績には、より大きく影響します。

そして、この「中短期の循環」には、一つの特徴があります。それは、「長期のトレンド」を中心に上下に周期的に動くということです。つまり、実際の為替レートが、購買力平価の理論値より円安に大きく振れれば、いずれ理論値に回帰する動きが起き、逆に、円高に振れれば、いずれ、その修正として、円安方向に回帰する動きが出るという繰り返しです。

米ドル/円為替レートが2007年6月から2012年1月までの4年半で、123円から76円まで変動した結果、現在の80円程度は、購買力平価が位置すると考えられる90円程度よりも、かなり円高方向に振れた水準と考えられ、いずれ円安方向に回帰する動きが起きるのが自然と思われます。

そして、2000年以降、この「中短期の循環」は、金融環境との関連を深めています。これは、金融市場が「リスク・オン」になり、資金が安全性資産から、より高いリターンが期待できる、株式や低格付け債券等のリスク性資産に移行し始めると、円安に向かい、逆に、「リスク・オフ」で、資金がリスク性資産から安全性資産に退避し始めると、円高に向かうといった動きで、貿易収支を中心に動いた1990年代までとは大きく異なる枠組みです。背景には、新興国の台頭による日本の輸出競争力の低下と為替市場における資本取引の影響力の拡大があると思われます。

従って、2月の日銀の追加金融緩和を契機とした円高修正の動きは、購買力平価に回帰する「中短期の循環」の始まりだとも考えられます。そして、この動きがどこまで続くかは、金融市場の「リスク・オン」の状態が、どの程度継続するかに大きく影響されそうです。

注:購買力平価:1921年にスウェーデンの経済学者グスタフ・カッセルが、一物一価の考え方に基づき、為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決定されるとした説である。この考え方では、物価上昇率の高い通貨の価値は低下し、物価上昇率の低い通貨の価値は上昇することとなる。

コラム執筆:

鈴木英典(すずき・ひでのり)

JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社

投資戦略ソリューション室長

JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、連載コラム「投資耳(ミミ)」「資産運用の井戸端トーク」を執筆。

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