第278回 米国の量的金融緩和第3弾の為替相場のへ影響は?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

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第278回 米国の量的金融緩和第3弾の為替相場のへ影響は?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

<質問>

2012年9月13日に米国の中央銀行が、いわゆる量的緩和第3弾を発表しましたが、ドル円相場にはあまり影響しなかったように思えます。事前の評判では、米国が追加金融緩和措置に踏み切れば、円高が進行するとの見方が多かったかと思いますが、なぜそうならなかったのでしょうか?

<回答>

ご質問、どうもありがとうございます。今回は、JPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木英典がお答えします。

確かに、過去を振り返ると日米金利差縮小と同時に円高が進行したケースが見られます。たとえば、リーマン・ショックを挟んだ2007年6月から2011年12月。この間に日米の金利差(※1)は3.84%から0.11%まで大きく縮小しましたが、同時に、為替は1ドル=123円から77円まで大幅な円高が進みました。この一致は、世界金融危機による景況感の急速な悪化を受け、米国の中央銀行が急激な金融緩和措置をとったことで日米の金利差が急速に縮小した現象と、投資家のリスク許容度の低下による質への逃避が急速に進み、為替が円高に振れた現象が同時に起きた結果だと思われます。

しかし、2000年代前半までは必ずしも日米金利差の縮小は円高を示唆してはおらず、実際は、逆に円安と繋がっていました。たとえば、1999年2月から2002年11月にかけて、ITバブルの崩壊や9.11で日米金利差は5.94%から2.00%まで縮小しましたが、この間、ドル円為替レートは、102円台から122円台まで円安が進んでいます。また、その前1998年7月から1999年12月までの期間では日米金利差が1%程度拡大したにも関わらず、為替は144円台から102円台まで急激な円高が進んでいます。

これらはほんの一例に過ぎませんが、1990年代においては日米金利差の縮小は円安と、拡大は円高と繋がっていたケースが多く見られます。これには、米国の景気の回復・拡大→米中央銀行の金融引締政策=利上げ→日米金利差拡大という動きと、米国の景気の回復・拡大→日本の輸出拡大→ドル建て輸出代金の円転による円買い→円高という動きが重なって、金利差の拡大と円高が同時に起きたという考え方があります。1990年代といえば、アジア危機等もあり、まだまだ日本の輸出競争力が突出していたこと、また、為替市場の主役が今のような資本取引ではなく、貿易取引だったことなども影響していたようです。

さて、米国金融緩和第3弾が発表された9月13日の前後1週間(※2) の主要通貨の対ドルでの為替レートの変化率を見ますと、米国の追加金融緩和にも関わらず、ドル/円はわずかながらドル高円安に振れています。しかし、実は、ドルは他の主要通貨、たとえば、対ユーロでは3%程度、対豪ドルでは1%程度下落しています。つまり、これらの通貨に対しては「セオリー通り」、金融緩和措置が通貨安に繋がっており、円は、むしろ、「例外」だったわけです。では、なぜ、円が「例外」になったか?これは推察する以外ありませんが、たとえば、円もドルも、すでにゼロ金利政策をとっていたため、追加金融緩和が金利差にあまり影響しなかった、あるいは、そのあとの日銀の出方を見たかった、あるいは、為替介入を警戒した等が考えられます。

このように、為替レートが動く理由はさまざまで、かつ、その局面によっても異なります。したがって、ひとつの「法則」ですべてを一括処理するのではなく、個々の局面毎に個別の事情を勘案して投資判断を下すことが賢い方法といえるのではないでしょうか?

(※1)2年物国債の金利差

(※2)2012年9月10日から17日

コラム執筆:

鈴木英典(すずき・ひでのり)

JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社

投資戦略ソリューション室長

JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、連載コラム「投資耳(ミミ)」「資産運用の井戸端トーク」を執筆。

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