第295回 今は、まだ、円高?それとも、もう、円安?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

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第295回 今は、まだ、円高?それとも、もう、円安?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

<質問>

先日ドル円為替レートが、一時的にせよ、94円台に乗せたこともあり、「今の為替水準は、もう円安だ」という声がちらほら聞こえてきます。一方で、ここまでの動きは「過度な円高の部分的な修正」に過ぎず、「今は、まだまだ、円高」という意見も根強く残っています。一体、どっちが、本当なのでしょうか?

<回答>

ご質問、どうもありがとうございます。今回は、JPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木英典がお答えします。

2月に入ってから、ドル/円為替レートが94円台に乗せる日も珍しくなくなりましたが、この94円は、2011年10月31日につけた75円32銭の円の戦後最高値に比べると20円近くも円安ですが、30年前の237円、10年前の118円に比べると、まだまだ円高の水準ともいえます。実際、ドル/円為替レートが94円よりも円高で推移した時期は、今局面を除けば、1995年の5ヵ月程度だけです。したがって、このような表面的な数字で円高か円安かを判断するのであれば、間違いなく今は、まだ円高です。

しかしながら、今が円高か円安かの判断は、単なる過去との比較がその目的ではなく、普通は、将来の為替レートが、どちらに、どこまで動くかを予想するためです。したがって、昔の1ドル=360円の固定レートやプラザ合意前の200円台の為替レートとの単純な比較はあまり意味がありません。何故かといえば、今の経済環境、特に日米の物価水準が当時とはまったく異なるため、その水準まで戻る可能性は非常に低いからです。

例えば、1980年以降現在までの間に、米国の消費者物価は約3.2倍、年率で3.6%も上昇しています。これは、逆に言えば、お金(ドル)の価値が3分の1程度に下がったということです。では、日本はどうでしょうか?日本では同期間に物価は1.4倍、年1%程度しか上昇していません。特に、1990年代以降は、デフレで物価はむしろ下がり気味です。つまり、ドルは30年間で価値が3分の1以下に下がった一方で、円は、ほぼ同じ価値を維持してきたことになります。

このように、価値の変動に大きな違いがあるにも関わらずドルと円の交換レートが30年前と同じだったら、どこか変ではないでしょうか?ちょっと考えれば、モノを買う力、つまり、購買力という尺度で見た場合、ドルの価値は円に対して大幅に切り下がっていることになり、この変化が為替レートに反映され、円がドルに対して高くなるという動きが自然だということになります。このような為替レートは物価上昇率の差を反映するという考え方を、1980年台のドル/円為替レートの平均約200円に当て嵌めて計算すると、今の為替レートは90円程度になるはずだということになります。このような考え方に立つと、94円は、円高でも円安でもなく、ほぼ適正に近い水準だという計算になります。

ちなみに、通貨の価値を総合的に計算した数値として実質実効為替レートというものがあります。これは、上記と同様に物価上昇率の差を反映した為替レートですが、同時に、日米のような2カ国間だけの為替レートではなく、すべての国の通貨との為替レートを貿易額などの重要度を勘案して指数化した数値(大きい方が円高)です。日本銀行や様々な国際機関が算出していますが、日銀の数値を見てみると、2012年12月末が93.07、過去10年の平均が97.36です。したがって、この数値を使っても、今の為替レートは、ほぼ適正水準と考えることができます。

このように考えてみると、どうやら、今の為替レートはほぼ適正水準ということになりますが、それでは、これ以上、円安方向に進む可能性はないのかというと、そうでもないようです。なぜなら、過去を振り返ると、為替レートは過度から過度へ振れる傾向があり、いったんトレンドが始まると適正水準で止まることはほとんどないからです。したがって、まだしばらくは円安方向への動きが継続する可能性があると思います。ただし、その場合でも、すでに足下では「過度な円安」に突入している可能性があることはお忘れなく。


コラム執筆:

鈴木英典(すずき・ひでのり)

JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社

投資戦略ソリューション室長

JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、連載コラム「投資耳(ミミ)」https://www.jpmorganasset.co.jp/wps/portal/Column/Indexや「資産運用の井戸端トーク」https://www.jpmorganasset.co.jp/jpec/ja/promotion/column/index.htmlを執筆。

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