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<質問>
4月に入って金価格が急落しました。景気腰折れの前兆ではないかという見方もあり、株式市場にまで悪影響が及ぶのではないかと、心配しています。金価格と経済、あるいは株価との関係を教えてください。
<回答>
ご質問、どうもありがとうございます。今回は、JPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木英典がお答えします。
まずは、これまでの金と株価の関係を確認することから始めましょう。ご質問の通り、金価格は4月12日(金)と15日(月)の2日間で13%以上も急落しましたが、金の下落は実は最近のことではなく、史上最高値の1889ドルをつけた2011年8月以来、すでに2年近くも下落し続けています。一方、米国株(※)は同期間で約40%も上昇、まったく逆の動きになっています。しかしながら、実は、このような現象は決して珍しいことではありません。
例えば、1971年から1974年にかけて金は約5倍に値上がりしましたが、米国株は約20%下落しました。これは、1971年のドルと金の兌換停止(ニクソンショック)で金価格が通貨から切り離されたことと、1972年の第一次石油ショックによる物価の急騰が金と米国株に逆に作用したためです。
また、逆の例になりますが、1981年から1999年にかけては、金価格が約半分に下落した一方で、米国株は約9倍に上昇しました。これは、第二次石油ショックの後、物価が落ち着きを取り戻す中で、経済活動が活発化し、企業利益が大幅に拡大したためです。
さらに、別のケースですが、世界金融危機を挟んでの2007年12月から2009年3月にかけて金は約20%上昇したものの、米国株は約半値に下落しました。金融危機時の株価下落は、ある意味、当然かもしれませんが、デフレ懸念が高まる中での金価格の上昇は、物価との連動性が高かった最初の2例とはまったく異なる動きです。この特殊な動きに他のコモディティには見られない金の特異な性格があります。
実は、金には、急激な物価上昇時と、物価下落時に、価格が上昇、その中間で物価上昇率が0~5%程度で落ち着いている時に下落するという、ちょっと変わった特性があります。これは金がラスト・リゾート、つまり、究極の安全資産という側面とコモディティ本来の特性の両方を持ち、その両方が時と場合によって別々に表面化するためです。つまり、急激な物価上昇時には、コモディティとしての特性から価格が上昇、一方、デフレ時のような社会不安が高まる時にも、通貨を超える究極の安全資産としての特性から価格が上昇するという傾向が見られるわけです。
このように経済混乱の逆境には、めっぽう強い金ですが、平常時は苦手で、下落しやすい傾向があります。これは、利子や配当を生まない金は、平常時には、利子や配当を生む債券や株に対して相対的な魅力度が低下するためです。つまり、金は経済混乱時に上昇、経済順調時に下落するというあまのじゃく的な性格の持ち主ということなのです。
これで、漸く、今回のご質問の回答に辿りつけるわけですが、2001年から10年以上も上昇トレンドにあった金価格が下落し始めたということは、ITバブルの崩壊、9.11、エンロンやワールド・コムの破たん、リーマン・ショックと様々な事件が続き、経済が混乱、株価がほぼ横ばいに留まった2000年以降の波乱の時代がそろそろ終わり、経済が順調に成長する新時代に向かう良い兆候なのかもしれません。いずれにしても、金と株式との関係は、経済的な背景によって大きく異なりますので、金価格の下落は、必ずしも、経済や株価にとって悪い兆候ではないと考えていいのではないでしょうか。
ちなみに、最近、数十年ぶりの金価格の最高値更新というような記事を目にしますが、これは円建て(上記は米ドル建て)の金価格への言及で、主に円安が影響したためのものです。グローバル基準となるドル建ての金価格は、上述の通り、すでに2年程前から約25%も下落していますので、そのあたり、混同しないよう気を付けてください。
※SP500、2011年8月22日から2013年3月28日
コラム執筆:
鈴木英典(すずき・ひでのり)
JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社
投資戦略ソリューション室長
JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、連載コラム「投資耳(ミミ)」https://www.jpmorganasset.co.jp/wps/portal/Column/Indexや「資産運用の井戸端トーク」https://www.jpmorganasset.co.jp/jpec/ja/promotion/column/index.htmlを執筆。
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