第312回 日本株の調整の本当の理由は?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

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第312回 日本株の調整の本当の理由は?(JPモルガン・アセット・マネジメント)

<質問>

5月下旬以来、日本株の相場が軟調な展開になっていますが、その一番の原因は何でしょうか?また、値動きも荒くなっていますが、このような不安定な状況は、いつまで続くのでしょうか?

<回答>

ご質問、どうもありがとうございます。今回はJPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木英典がお答えします。

確かにご指摘の通り、日経平均株価が1,143円も下げた5月23日以降、日本株は調整局面に入り、値動きも荒くなっています。通常、日経平均株価指数の1日の騰落率は概ね上下1%程度ですが、以降、その何倍も動く日が多くなっています。その前日に、米国中央銀行のバーナンキ議長が量的緩和策縮小の可能性に言及していたことから、米国金融緩和政策の出口論を一番の理由に挙げている向きもありますが、必ずしも、それだけで説明できる現象ではなさそうです。

例えば、お膝下の米国株式市場は、約1カ月の6月19日にバーナンキ議長が金融緩和の縮小についてより踏み込んだ発言をするまで、ほぼ高値の水準で安定的に推移しました。

そして、より重要なことは、各市場でトレンドが変わったタイミングがずれていたことです。思い返せば、最初に、変化が起きたのはJ-REIT市場でした。東証J-REIT指数は3月27日に最高値を付け、以降、値動きが荒くなるとともに、価格も大きく下落しました。そして、次に転換点を迎えたのは債券市場です。黒田総裁の異次元金融緩和発言の直後の4月5日、10年国債の利回りは史上最低の0.315%まで急低下(価格は急上昇)した後、反転、上昇、やはり、値動きが激しくなりました。さらに、日本株が下落基調に転じた5月23日に遅れること約1週間、5月末になって為替が大きく円高に動きました。ドル/円為替レートが100円を切り、値動きが荒くなったのは概ね6月に入ってからです。

このように各市場が変調を来たしたタイミングがずれていたことが今回の大きな特徴です。もし、何らかのニュースが材料となって市場が動く場合、情報化が進んだ現在では、すべての市場で同時に何らかの反応が見られます。典型的な例が2011年の米国債務問題やギリシャ危機、そして、2008年のリーマン・ショックです。こういった大ニュースには、すべての市場が同時に反応し、上げ下げの方向は異なるものの、その消化のために、やはり同時に大きく変動するものです。では、なぜ、今回はタイミングがずれたのでしょうか?それは、今回の調整が何らかのニュースを原因としたものではない可能性があるということです。そして、悪い風邪がうつるように、ドミノ的に、次々と各市場で値崩れが起きる典型的な原因がポジション調整です。つまり、相場が一方向に大きく動く中で、一部の市場参加者が極端に大きな金額の投資を積み上げ、それが何らかのきっかけで、維持できなくなり、一斉に売却に走るために引き起こされる市場の混乱です。このような場合、そのきっかけになった出来事が犯人扱いされることが多いのですが、それは実のところ冤罪であることが多く、本当の原因は積み上がったポジション自身にあります。逆にいえば、きっかけは何でも構わなかったということで、経済実態に何らか大きな変化が起きたわけではないので、当然の帰結として、ポジションさえ整理されれば、市場は、再び、落ち着きを取り戻し、元の鞘に戻る可能性が高いということです。

ちなみに、このようなポジション調整で市場が大きく動く場合の特徴として取引高の急増が挙げられます。これは、ポジション整理の売りと新規の買いが交錯するためですが、今回も通常であれば20億株程度の東証一部の売買高が一時50億株~70億株にまで跳ね上がりました。しかし、その売買高も、ここ数日は25億株程度の普通の活況水準まで下がってきましたので、そろそろポジション調整の局面も終わりに近付いているのかもしれません。実際、先行して値動きが荒くなったJ-REIT市場と債券市場は、最近は落ち着きを取り戻しつつあります。

最後に、現在の日本株のバリュエーション ですが、PER(予想ベース)14.6倍、PBR1.25倍、配当利回り1.63%ですが、これらの数字は過去2回の株価のピーク時の水準、1999年12月の46.7倍、1.6倍、0.98%、2006年3月の19.5倍、2.0倍、0.99%に比べると、まだまだ、相当に割安な水準にあるということを付け加えておきます。

コラム執筆:

鈴木英典(すずき・ひでのり)

JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社

投資戦略ソリューション室長

JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、連載コラム「投資耳(ミミ)」https://www.jpmorganasset.co.jp/wps/portal/Column/Indexや「資産運用の井戸端トーク」https://www.jpmorganasset.co.jp/jpec/ja/promotion/column/index.htmlを執筆。

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