第330回 この超低金利の中で長期債を買う理由 (JPモルガン・アセット・マネジメント)

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第330回 この超低金利の中で長期債を買う理由 (JPモルガン・アセット・マネジメント)

<質問>

8月初めに0.8%台だった長期金利が、10月中には0.6%を割る水準にまで低下していますが、この背景には、どのような事情があるのでしょうか?また、物価が上がり始めている中で、ほぼゼロ%の金利水準で長期債に投資する意味はどこにあるのでしょうか?

<回答>

ご質問いただき、誠にありがとうございます。今回はJPモルガン・アセット・マネジメントの鈴木英典がお答えします。

長期金利の低下には様々な要因があると思われます。例えば、世界的な景気回復基調は続いているものの、リード役の日米の動きがともに力強さに欠けていること、また、企業利益も円安の効果を除くと伸び悩んでおり、その結果、今年度に入ってからは、株価も横ばいの動きが続いていることなどが挙げられます。また、最近米国の長期金利が低下基調にあることも影響しているものと思われます。

しかし、より直接的には、この環境下で、かつ、この金利水準でも長期債を大量に買う投資家がいるということが一番の要因として挙げられます。金利(10年国債金利は現状0.6%程度)よりも物価上昇率(9月消費者物価指数総合前年比は+1.1%)が高い今のような環境下で債券に投資すれば、物価上昇率を差し引いた実質的なリターンがマイナスになる可能性が極めて高いため、一般的な投資家は敬遠するものですが、それを承知の上で、長期債を買う方々が少なからずいるということが、今回の金利低下の背景です。
では、買っているのは、具体的には、誰なのか?

まず、筆頭に挙げるべきは生命保険会社です。統計データ(※)をみると、生保は、異次元金融緩和後も毎月8千億円程度も超長期を中心に国債を買い続けています。そして、次に挙げるべきは銀行です。8月までは中期債を中心に大幅に国債を売り越していた銀行ですが、9月には長期債を買い戻す動きが見られ、さらに、10月には幅広い範囲で買い戻しているとの話が聞こえてきます。

ただし、ここで個人投資家の方々に注意していただきたいのは、これらの機関投資家には、この環境下でも国債を買わなければならない特殊な事情があり、その事情は、凡そ、個人投資家とは異なるということです。

例えば、機関投資家には、銀行の自己資本規制、保険会社のソルベンシーマージン等のリスク面からの規制があります。つまり、魅力的な投資対象があったとしても、自由に買えるわけではないということです。また、機関投資家の有価証券投資には、個人投資家とは異なる独自の目的があります。例えば、銀行であれば、決算期毎に一定の金利収入を上げなければならいとか、生命保険会社であれば、保険契約でお客様と約束した利回りを確保しなければならないとかいった具合です。ここで特に重要なのが、その投資目的が、物価上昇率と切り離された名目のリターンか、物価上昇率に影響される実質のリターンなのかというポイントです。金融機関の多くは名目のリターンを求めているのに対して、個人投資家は実質のリターンがプラスにならなければ投資の意味がない。この点が決定的に違うため、個人投資家の目からすると機関投資家の行動が不合理に見えてしまうわけです。このような環境下で金融機関が債券を購入しているのは、個人投資家とは全く異なる独自の目的、理由があるからで、実質リターンを追求すべき個人投資家は、今のような実質金利がマイナスの環境下での長期債投資には、くれぐれも慎重に対応してください。

※)日証協国債投資家別売買高

コラム執筆:
鈴木英典(すずき・ひでのり)

JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社

投資戦略ソリューション室長

JPモルガン・アセット・マネジメントのホームページにおいて、連載コラム「投資耳(ミミ)」https://www.jpmorganasset.co.jp/wps/portal/Column/Indexや「資産運用の井戸端トーク」https://www.jpmorganasset.co.jp/jpec/ja/promotion/column/index.htmlを執筆。

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