第335回　NISA開始！長期分散投資に利用するための注意点とは？

＜質問＞

NISAが本格的に開始しました。長期分散投資に活用したいと考えていますが、ポートフォリオを考える際の注意点を教えていただけますでしょうか。

＜回答＞

以前にも書きましたが、NISA口座のメリットが最大になるのは投資利益が最大となる場合です。利益の額が大きいほど課税額が大きくなるため、非課税口座のNISAを活用するメリットが大きくなります。問題は、将来のリターンを正確に予想できないため、できるだけ高い確率で高いリターンを実現するにはどうしたらいいか、というアプローチが必要になります。これを考えるうえで役に立つのが平均と標準偏差の考え方です。

サイコロの出目を例にすると、普通の6面体のサイコロの出目の平均値は3.5、最大値は6、最小値は1で、標準偏差は1.87です。これらの数字の意味は、とてつもない回数でサイコロを振ると、出る目の平均値は限りなく3.5に近づき、全ての目は1から6までの間に収まり、平均値の3.5に標準偏差の1.87を足した数値と平均値から標準偏差を引いた数字の間に、全体の約2／3のデータが含まれるということになります。一方、1から12までの数字が書かれた12面体のサイコロの場合は平均値が6.5、最大値が12、最小値が1、標準偏差が3.61になります。この場合、当然ながら12面体のサイコロのほうが出目の散らばる範囲は広いですが、最低のケースはどちらのサイコロも1で、最低の１を引く確率は、6面体は1／6で、12面体は1／12です。また、2/3のデータが収まる範囲も、6面体は5.37～1.63の間、12面体は10.11～2.89の間と、12面体のサイコロを振ったほうが6面体のサイコロを振るよりも大きな数字が出る可能性が高いことがわかります。投資の世界では、知り得ない将来のリターンがどのくらいのものになるのかを推量するために、過去のリターンを集計して、そのリターンの平均と標準偏差、最大値、最小値を算出し、どのくらいの範囲にリターンが収まる可能性が高いかを考えます。これによって、できるだけ高い確率で高いリターンを実現するポートフォリオを考えることができます。

そのうえでの注意点を2つお話しします。まず第一は、過去のリターンの分析はあくまでも過去のデータであり、将来のリターンが過去のデータの散らばっていた範囲の外に出てしまう可能性もあることです。たとえば米ドル建ての債券のリターンは、1981年の15.8％から2012年の1.4％まで過去30年以上に渡って低下し続けた米国債利回りの影響で過去30年以上常に追い風を受けてきたことになります。こうした期間のデータを使ってこれから先のリターンを予想する際には注意が必要です。環境が180度変わってしまうわけですから。第二は、データの期間が十分に長いかどうかという点です。これから先5年間のリターンを考えるのであれば、少なくとも過去10年以上のデータを分析する必要があります。過去3か月、1年といった短い期間のデータを使ってこれから5年のリターンを予想すると、大きくずれる可能性があります。京都は夏暑く、冬寒いと言われますが、夏の京都の3日間の平均気温や冬の3日間の平均気温を使って今後5年の平均気温を占っても、その数値は大きくかけ離れることでしょう。

コラム執筆：ジョン太郎

金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。