第345回 TPP参加で起こる日本への影響は?

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第345回 TPP参加で起こる日本への影響は?

<質問>

TPPについて、安倍首相が早期妥結に向けた決意を表明した一方、TPP参加のメリットが薄れているのではないか?との記事もありました。日本がTPPに参加することで、日本の経済にどのような影響があるのでしょうか。また、生活に影響はあるのでしょうか。

<回答>

TPPが目指すところは、加盟国間の自由貿易協定(FTA)の要素(貿易自由化、関税の撤廃など)に加えて、貿易以外の分野でも人の移動や投資や知的財産保護などの様々な分野で加盟国間で連携していく、というものです。要するに、国と国の間の様々な壁を取り払って、もっと互いに経済活動などを活発に密にやっていきましょう、というものです。日本のようにそれなりに多い人口がいて、経済規模も大きな国はなかなかこの発想に至りませんが、TPPの最初の4か国(シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイ)は4か国合わせても人口は3,000万人程度です。こうした人口の少ない国は、1人当りGDPを世界トップクラスにまで押し上げてもその経済規模は大国と呼ぶにはほど遠いサイズにしかなりません。たとえ4か国の人が一緒になって1人10万ドルずつ稼いでもその経済規模は3兆ドル程度で日本の半分程度です。すると、1人あたりの豊かさは比較的高くなっても、日米中やユーロ圏などの大きな経済圏が持つプレゼンスや発言力、あるいは域内経済の相乗作用、などの点ではどうしても見劣りしてしまいます。そこでいくつかの国が集まって、経済的に融合していくことで、加盟国内経済の相乗作用による経済の活性化や、プレゼンスや発言力の増強を図ることができます。


このTPPに日本が参加するとなれば、日本は大きな経済規模をもって参加することになります。TPPに大きな経済規模をもって参加すること自体がその目的ではなく、TPPという手段を用いて何を実現したいかが重要で、相応のプレゼンスと発言力をもってTPPに参加し、加盟国との連携を密にして米中の間で近年存在感が徐々に薄れている日本の経済の地位向上を狙うとか、日本が参加せずにアメリカが参加して日本除きで環太平洋経済圏を形成されてしまうのを防ぐとか、今後の国際貿易のフィールドやルールを作っていくプロセスで参加し日本の考えや意見を伝えていくとか、今後の日本の経済システムを今後の世界に適応したフォーメーションに合わせるために必要な国内改革を進めていくきっかけにするとか(農業をどうするかがその代表)、が重要なのではないかと思います。


前述のようにTPPは単なる貿易協定ではないので、貿易面だけにフォーカスした話をすべきではありませんが、あえて話をわかりやすくするために貿易面にフォーカスしてお話ししますと、もし日本が①農業をして農産物を作り国内向けだけに売っている人、②農産物を輸入して国内向けだけに売っている人、③自動車を作って海外向けだけに売っている人、の3種類しかいない国だったとして、①の人だけを守るために外国から入ってくる農産物に物凄く高い関税をかけて外国産農産物が入ってこれないようにする、②の人の商売はなりたたないようにする、③の人は他国に自動車を売りやすいように他国に対しては自動車輸入の関税を撤廃して日本から自動車を輸出しやすいように要求する、としたら他の国はどう思うでしょうか。自由貿易にすれば、これまで高い関税に守られてきた人たちは、これまでよりは厳しい競争環境にさらされることになります。一方で、これまでもあまり関税に守られることのない業種で厳しい競争環境の中で必死に生き抜いてきた人たちもいます。ちなみに、農林水産業がこの点で大打撃を受ける、という話が多いので参考になる数字をお示ししておくならば、農林水産業が日本のGDPに占める割合は1.2%、就業者に占める農林水産業の割合は3.7%の233万人です。


日本の経済にとってTPP参加自体の是非でどのような違いが出るか、というのを言い切るのは難しいと思います。どのような形で参加するのか、によっても違ってきますので。あえておおまかに言うならば、TPP参加で一部のこれまで関税で守られてきた産業がこれまでよりも厳しい競争にさらされる可能性がある(が、良い商品を消費者に受け入れられる価格で提供すれば消費者に選ばれるというのは他の業界と同様。消費者にとっては選択肢が増えるだけで、選ぶに値しない選択肢しか増えない可能性もある。)、知的財産保護の点でこれまで悩まされてきた産業の悩みの種が消える可能性がある(が、新たな悩みの種が生まれる可能性もある。)、国をまたいでの人の移動や投資が活発になる可能性がある、日本がこれから誕生するかもしれない新たな大きな経済圏で一定の地位を確保できる可能性がある、ということは言えるのではないでしょうか。


コラム執筆:ジョン太郎

金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。

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