第348回 成長戦略が日本株式市場に与える影響は?

今知りたい!投資の悩みやお金に関する質問に資産運用の熟練講師がお応えします。

第348回 成長戦略が日本株式市場に与える影響は?

<質問>

6月24日に閣議決定された成長戦略について、株式市場に与える影響など教えていただけますでしょうか。

<回答>

まず、そもそもなぜ日本の成長率はこんなにも低いのでしょうか。ブラジルの話の時にもご紹介しましたが、IMFによる日本の実質成長率予想は以下の通りです。

2014年:1.351%

2015年:0.965%

2016年:0.670%

2017年:0.992%

2018年:1.006%

2019年:1.125%


GDPというのは【人口×1人当りGDP】です。日本の人口は既に減少の一途を辿っており、人口が減っていくならば1人当りGDPをキープするだけではGDPは減少し、マイナスの成長率となってしまいます。人口減少分を補う1人当りGDPの伸びを達成してはじめて経済成長率をマイナスにしないようにすることが可能になるのです。一方、日本の1人当りGDPを上げていくことは容易ではありません。日本の1人当りGDPは38,142ドルです。

他の先進国の1人当りGDPと比べてみますと、米国が54,980ドル、独国が47,893ドル、仏国が45,123ドル、英国が43,830ドル、という具合で、他ですとノルウェーが99,574ドル、ルクセンブルグが116,134ドル、シンガポールが55,568ドル、といったところです。ノルウェー、ルクセンブルグ、シンガポールはいずれも人口が少ないながらも、少ない労働力で大きな付加価値を生み出せる産業をもっています(ノルウェーは原油・天然ガスが多くとれますが自国電力はほぼ水力発電、ルクセンブルグは世界トップクラスの金融センター、シンガポールは高付加価値産業を奨励・優遇して高付加価値産業にフォーカス)。

日本が1人当りGDPを、例えば現在の2倍の76,000ドルにできるかと言えば、相当困難な道のりであることは他国の1人当りGDPをご覧いただければわかるかと思います。日本の名目成長率(インフレ分も含めたGDP成長率)を高くするにはインフレ率を上げてしまえば済む話ですが、実質成長率(名目成長率からインフレ分を差し引いた成長率)を高くするためには、人口の増加か1人当りGDPの増加か、その両方が必要です。


以上を踏まえて今回の成長戦略を見てみますと、いろいろと夢は語られていますが、夢の実現のための「具体策」として出てきているのは、「民間投資拡大」「新事業投資促進」「雇用維持型から労働移動支援型への転換」「若者・女性等活躍促進」「(省庁縦割りを廃し)総合科学技術会議の司令塔機能の強化」「IT利活用裾野拡大のための規制・制度改革」「健康寿命伸長産業の育成」「医療関連産業の活性化」「再生可能エネルギー導入のための規制・制度改革等」「電力システム改革の実行」「新素材の開発」「宇宙インフラの整備・活用」「担い手への農地集積」「耕作放棄地の発生防止・解消等による競争力強化」「経済連携交渉の推進」「クールジャパン推進機構を活用したクールジャパンの戦略的な推進」「対内直接投資の活性化に向け、特区制度の抜本的改革や、政府の外国企業支援・誘致体制の抜本的強化」「グローバル等に対応する人材力の強化」などです。いずれも「具体策」とは言えないようなものや、これまでに何度も「骨抜き」になったものや「抜本的」を再掲し続けているもの、などとても人口の増加や1人当りGDPの増加が達成できるなと期待できるものではないというのが個人的な感想です。


株式市場に与える影響としては、短期的には市場がこれをどう評価するか、ですが市場の声としては「一定の評価」とするものが多い印象を受けていますが、市場の動きは一定の評価をしているとは思えないような動き方をしています。

一方で中長期的には実際にこの戦略が日本の成長率を高め、日本企業の利益を増やしていけば、ファンダメンタルズによって日本株のパフォーマンスが下支えされていくことになります。私はこの部分に対して懐疑的です(少なくともこれまでに発表された成長戦略を見る限りは)。


コラム執筆:ジョン太郎


金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。

マネックスからのご留意事項

「お金の相談室」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧