第352回 米国の政策金利引き上げからの影響は?

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第352回 米国の政策金利引き上げからの影響は?

<質問>

9/17に米FOMCの発表があります。8月の発表では政策金利の利上げが早まる可能性があるとの言及がされました。今回、利上げが早まることが決定されたと発表された場合、日本にいる個人への影響はどのようなことが考えられますか?

<回答>

利上げが早まることの影響というよりは、米国の政策金利引き上げの影響が大事になってくるかと思いますので、後者についてお話しさせていただきます。

まず、そもそも金融政策についておさらいをしておきますと、経済政策のうち、国(政府)が行うものが財政政策、中央銀行が行うものが金融政策です。金融政策の本来の目的は「物価の安定」と「お金の価値の安定」です。一般に、景気が良くなれば物価が上昇し、お金の価値が下がります。この時、お金の価値が急激に下落するのを防ぐため、中央銀行は金融政策を「引き締め」方向に進めます。引き締めるというのはいわば景気とインフレに対するブレーキで、反対は緩和で、緩和は景気とインフレに対するアクセルということになります。代表的なのは政策金利の上げ下げで利上げは引き締め、利下げは緩和ということになります。


アメリカの中央銀行はサブプライムローン問題に端を発する金融危機の中で、急激に落ち込んだ景気を回復し、金融システムを安定化させるため大幅な金融緩和を行いました。5%以上あった政策金利を実質ゼロにまで引き下げ、日本円で約400兆円もの量的緩和を行い、景気回復と金融システムの安定化をはかったのです。結果としては、アメリカの景気は回復し始め、経済活動は活発になり、インフレ率も適度に上昇し、金融システムは崩壊せずに安定的に機能し始めました。しかし、薬と同様に金融政策にも副作用があります。代表的なものは通貨価値の下落です。金融緩和を行った場合、通貨価値が下落するのが一般的です。アメリカの大幅な金融緩和でドル/円レートは2007年の120円台から一気に70円台にまで大幅なドル安が進みました(その後の日本の金融緩和で今度は円安が起こっています。)。


金融緩和はインフレ率にも上昇圧力をかけます。さらに、インフレと通貨安には相互作用があり、インフレは通貨安を招き、通貨安はインフレを招きます。こうしたことから、あまりにも長期間に大規模に、あるいは必要以上に緩和をやり過ぎると、インフレと通貨安、あるいはお金の価値の下落が一気に進んでしまいます。

さらに、今回のアメリカの大幅な金融緩和は世界中の金融市場に大量の資金を供給してきました。こうした資金が一部の流動性の低い市場にバブルを発生させており、FRBやIMFからもハイイールド債などの資産に対する警鐘が出るなど、各方面から懸念が示されています。アメリカの金融政策は世界の金融市場に与える影響が非常に大きいため、アメリカがこのまま金融緩和を続けていけば更にあちこちでバブルが発生しかねません。こうしたことからアメリカの金融引き締め開始の時期が注目されているわけですが、ご質問の利上げというのはまさにその引き締め開始の時期ということになります。


その影響はと言えば、まず挙げられるのはドル高です。ドル高円安の進展により、円資産の価値が下落し、海外資産の購買力が落ちることが考えられます。これは、これから海外資産に投資しようとする人やこれから海外の海外を買収しようとする企業にとっては大きな痛手となります。さらに、輸入物価の上昇とそれに伴う国内インフレ率の上昇が考えられます。ますます投資の重要度は増すことでしょう。その時に海外資産を買おうにも円安が進んでしまっては・・・ということになります。


さらには、これまでの米金融緩和がうみだしてきた価格の底上げ、つまり大量に供給された資金が流れ込み、本来の価値よりも高いところまで値段をかさ上げしてしまった市場はいわば金融緩和の恩恵を受けてきたことになりますから、金融政策の方向性が180度変われば今までの追い風は向かい風となるわけで、こうした市場については注意が必要でしょう。もちろん、あちこちで発生しているボラティリティの低下(変動幅が小さくなっていること)も金融緩和がその大きな要因の1つであり、ボラティリティが低いことを前提にしていたり、ボラティリティが低いのが当たり前、これが本来の姿、と考えていたりする場合は、少し冷静になって考えてみる必要があるのではないでしょうか。


コラム執筆:ジョン太郎


金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。

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