第366回 はて、日本にある「投資は駄目」の風潮はどこから・・・?

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第366回 はて、日本にある「投資は駄目」の風潮はどこから・・・?

<質問>

最近、巷で評判のインベスターZという漫画を読んだんですが、昔の日本人は投資大好き、投資上手な国民だったと知りました。どこで現在の様な「投資は駄目」みたいな風潮になったんでしょうか?

<回答>

私は週刊モーニングの愛読者なのでその漫画も読んでいますが、正直に申し上げれば、金融業界に生きる者としては疑問符がつくような内容や賛同しかねる内容、肯定できないような内容もあります。それでも、漫画というものの位置づけを考えればそうしたことにいちいち目くじらを立てる必要はないと思いますし、それが読者に投資に対する興味を抱かせたり、お金や金融市場や経済について考えるきっかけとなったりするのであれば、とても価値のある素晴らしいものだと思います。

これらのことを申し上げたうえで、昔の日本人は投資が好きだった・投資上手な国民だった、これが真実か否かを語るのは私の専門外の分野だと思いますので、この点についての言及は遠慮させていただきたいと思います。一方、「投資は駄目みたいな風潮」ということについては私がお話できることもあると思いますので、この点について少しお話ししたいと思います。

多くの日本人は投資をせず、預金や保険商品などの元本保証型の金融商品のみで金融資産を保有していることは各所から報じられている通りです。投信の保有者・経験者は1,000万人に満たず全人口の10%以下という状態です。なぜ、こうした事態になってしまっているか、私は3つの大きな要因があると考えています。

(1) 低インフレ状態が続いたこととインフレに対する認識不足

1994年~2013年の20年間の日本の物価上昇率は累積でなんと▲1.17%、20年前に10,000円だったものが9,883円で買えるようになるという異常な20年間でした。この間は「10,000円が10,000円のまま」ということに大きな価値があります。リスクをとらなくてもお金が増えるのですから。これが投資の必要性やインフレに対する認識不足を招くことに大きな影響を与えたと思います。お金の増えるスピードがインフレ率を下回ることは、購買力が低下し、お金の価値が目減りすることに他ならないのですが、現在のように政府が2%のインフレ目標を掲げ、2014年の平均インフレ率が2.7%となってもなお、0.1%以下の金利の預金で「お金をとっておく」ことが可能と考える人が多いのは、こうした過去20年間のデフレ環境の影響が大きいのではないでしょうか。また、(2)と絡みますが、インフレの意味を学ぶ機会が少ないこと、デフレ環境下でそうした教育・情報提供の必要性が薄かったことも要因の1つでしょう。

(2) 金融教育・投資教育の不足

近年その必要性が叫ばれるようになってきていますが、やはりまだまだこの国では金融教育・投資教育が十分に行われていません。また、それらの教育を行うために必要な高度で正確な知識を持つ人が少ないことも問題だと思います。親が子供に教えようにも親が分からず、先生が生徒に教えようにも先生が分からず、ということがこの問題解決の難しさの根幹ではないでしょうか。これからは金融業界で働くプロたちがこうした分野で貢献していくことがとても重要な意味をもつと思います。そう考えて私自身もできるだけ貢献していこうと本コラムをお引き受けしております。

(3) 社会保障制度と終身雇用に代表される社会構造

他国のように社会保障制度が十分ではなければ、もっともっとお金のことを考えたり、老後のために備えたり、稼いだお金を減らさない・増やす、という意識が芽生えやすかったかもしれません。老後のことは国がなんとかしてくれる、まじめに一生懸命働いていれば老後は安泰、欲張ってお金を増やすなんていやしいことなんてしなくてもいい、という風潮を生むほど社記保障制度が(かつて)しっかりとしていたことも、多くの人が投資の必要性を認識できない・していない要因の1つかと思います。また、終身雇用制度もそれを支える大きな要因だったと思います。また、そうした風潮を生み出していった1960年代、1970年代、1980年代に所得の大幅な増加があったことも一因だと私は考えています。

以上、主にこうした3つのことが、日本人の「投資の必要性」に対する認識不足を招いたのではないかと考えます。


コラム執筆:ジョン太郎

金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。

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