第368回　祝・北陸新幹線開通！地方創生の実現なるか？

＜質問＞

北陸新幹線開通で盛り上がっていますが、地方創生は実現できるでしょうか。足りないものがあるとすれば、何の要素でしょうか

＜回答＞

私の専門ではないテーマですが、私でお話しできる範囲でできる限りのことをお話ししたいと思います。

まず、北陸新幹線の開通は4時間近くかかっていた東京～金沢間を2時間半に短縮し、大幅に利便性を向上します。これにより、北陸地域の居住地・事業地としても立地条件が良くなることが期待できます。これにより北陸地域への転入人口の増加や企業の進出が期待できます。観光等の短期的な人の動きも大きく増えることが期待でき、また、これらに付随した域内の宿泊・飲食・小売・サービスなど二次需要の増加も期待できます。

こうした、いわば「恵み」とも言うべきチャンスをこれらだけに限定されたものにするのか、これらを活用して更に大きな波及効果を得るのか、が成功のポイントであり、努力のポイントだと思います。観光地や宿泊施設の整備など直接的なものに限らず、たとえば首都圏で暮らす人々や事業を営む事業者が流入するインセンティブを大きくするための、観光などすぐに思いつくものからは直接結びつかない保育園などの整備、子育て支援政策、教育・医療・福祉・介護などの充実、生活サービス事業者の誘致、事業者同士の交流を増やす取り組みや、事業インフラの充実、事業支援の充実、といった幅広い分野での取り組みができるかどうか、などが波及効果を大きくすることができるかどうかの鍵を握るのではないかと思います。更には行政が、自治体の枠を越え、幅広いアイデアを募り、縦割りをせず、官僚的にならずに柔軟・迅速な対応をしていくこともとても重要だと思います。

他方で、北陸新幹線の開通にはいわゆる「ストロー現象」「ストロー効果」と呼ばれる懸念もあります。この現象は、高速道路や鉄道、航空路線、橋などの交通手段の開通によって、開通先の都市が衰退してしまったりすることを指します。このケースで言えば、北陸新幹線というストローにより、北陸地域の買い物需要が首都圏に吸い上げられてしまうことが懸念されます。交通手段の開通によって移動時間が短くなることでこうした現象が発生するケースは多々あります。また、通過する沿線地域の衰退や、在来路線沿線の衰退が進めば地域全体の活気がなくなり、結果として居住地・事業地としての魅力が低下してしまうということも 考えられます。 もちろん、北陸地域の人口よりも首都圏地域の人口のほうが多いわけですから、首都圏に吸い上げられる以上に首都圏から吸い上げればネットでプラスとすることが可能です。

移動が便利になることで事業所などが統合される可能性も出てきます。これまで首都圏からのアクセスに時間がかかるために北陸地域をカバーするための事業所を設置していた事業者が、首都圏から北陸地域をカバーすることが可能になることで事業所を首都圏事業所に集約することも考えられます。観光でも、移動時間が短くなることで、これまでよりも日帰り観光の割合が高くなって宿泊需要が期待したほど増えなかったり、逆に減ってしまったりする可能性も否定できません。

以上から、やはり北陸新幹線が開通すること自体よりも開通した北陸新幹線によって人を呼びこむための工夫によって大きく成否が分かれることになるのではないかと私は考えます。

コラム執筆：ジョン太郎

金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。