第370回 J-REITの今後の見通しは

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第370回 J-REITの今後の見通しは

<質問>

J-REITの今後の見通しはどうでしょうか。

<回答>

日本のREITいわゆるJ-REITに限らず、REITというのは短期的にはその国の金利動向と資金フローがとても重要で、中長期的には賃料収入の動向がとても重要な意味を持ちます。

各国のREITの値動きは、その国の国債利回りのグラフと逆に動く傾向があります。J-REITと日本の10年国債利回りを比較したグラフ、米国REITと米国の10年国債利回りを比較したグラフをそれぞれ描くと、まるで鏡をおいたように真逆に動いていることが分かります。これは、国債利回りが上昇すればREIT価格が下がり、国債利回りが下がればREITが上がる、という具合に。

こうした現象が起こるのは、国債利回り上昇によるその通貨のベース金利の上昇が、

◆REITの利回りの相対的な魅力を低下させ

【例:国債利回り1% vs REIT利回り3% ⇒ 国債利回り5% vs REIT利回り3% のように】

◆REITの借金の利払い負担を増加させて利益を減少させ

【例:100億円の家賃収入-50億円の諸経費-20億円の借金利息=30億円の利益 ⇒ 100億円の家賃収入-50億円の諸経費-30億円の借金利息=20億円の利益 のように】

◆REITが保有する不動産の価格下落要因になる

【例:20億円の年間利益÷キャップレート3%(国債利回り1%+リスクプレミアム2%)=667億円 ⇒ 20億円の年間利益÷キャップレート5%(国債利回り3%+リスクプレミアム2%)=400億円 のように】

というような形でREITにマイナスの影響を与えるためです。

また、REIT市場は株式市場などと較べて市場規模がとても小さいため(1日の売買代金は日本株:約2兆円程度/J-REIT:約300億円程度、米国株:約13兆円程度/米国REIT:1,500億円程度)、少しまとまった資金の出入りに大きく左右されます。

こうしたことから、J-REITの見通しを考えるうえでは、日本国債の利回りが上がらないか、今のJ-REIT人気が維持できるか、の2点がとても重要です。前者は日銀の量的緩和策で日銀による国債買い入れが続いており、これが日本国債の利回りを低位維持するとても強い力になっています。一方でGPIFのポートフォリオ見直しやそれに追随する各年金基金によって保有する日本国債の売却が進み、銀行をはじめとする金融機関でも日本国債保有のリスクが懸念され、見直しの動きは出始めています。これらにより、長期的には日本国債の利回りに上昇圧力がかかってくることはあり得ますが、短期的にはそれらの動きは限定的で、日銀の買い入れが当面は国債利回りを低位させていく可能性が高いのではないかと考えています。後者のほうが予想が難しく、例えば日銀によるJ-REIT購入やそれに追随する動きはプラス材料ですが、J-REITに投資する数千億円の残高の投資信託が分配金を下げたりすることで資金流出をしたりすれば売買代金が300億円程度の市場に数十億円の売りが浴びせられることも十分あり得ますし、そういうファンドの人気がさらにでて毎日数十億円が流れ込めば大きなプラス要因となります。予想は困難で、そういうリスクがあると認識するしかないのではないでしょうか。


中長期的には賃料収入に起因するインカムゲインの積み上がりがとても重要です。賃料収入は保有不動産の床面積と賃料単価と稼働率によって決まり、床面積は変わらず、稼働率は低水準時に買うのでなければ上昇余地は限定されるため、賃料単価が大きな変動要因となります。その賃料単価は建物の経年による低下圧力と、需給との見合いになります。どれくらいの賃料単価を払えるか、は払う側の支配能力が大きく影響するため、住宅であれば国民の可処分所得の上昇、家賃にまわせるお金の増加、が重要で、日本はこの点に大きな懸念があると思います。低下した賃料でもある程度の積み上がりは期待できますが、支払利息の上昇による収益率の悪化や、ネット収益の低下による不動産価格下落、キャップレートの上昇による不動産価格、経年、なども考えると、やはり可処分所得上昇による賃料単価上昇が期待できるよう環境が望ましく、日本のREITはその点でやや弱さが感じられるように思います。可処分所得の上昇が期待できるような他国のREITと比較すると、中長期には見劣りすると個人的には考えます。

コラム執筆:ジョン太郎

金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。

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