第393回　マイナス金利発表後の金融商品の変化は？

＜質問＞

マイナス金利発表後、金融商品に何らかの変化等あったのでしょうか？また、投資先によって清算される可能性などありますか？

＜回答＞

まず、今回の日銀のマイナス金利の導入の目的は、量の面での国債の買入れ継続と合わせ、金利全般により強い下押し圧力を加える、というものです。円の金利全体が下がることで、銀行などが資金を日銀に預けるのではなく、積極的に融資をしたり、有価証券購入などの投資に向けるようになり、ひいてはそれらが、個人消費や住宅購入を増やしたり、企業の設備投資などを増やす効果が期待されています。そしてその先にあるのは日銀の目指す年率2％のインフレ目標の達成です。これは欧州で既にマイナス金利を導入しているスウェーデンやユーロ圏のマイナス金利と同じ狙いです（スイスとデンマークのマイナス金利は自国通貨高を防ぐことが狙いで、スウェーデンとユーロ圏はデフレ払拭とインフレ目標の達成が狙いです）。

その過程で生じる金融市場への影響としては、ポートフォリオ・リバランス効果（債券の比率をさげて株式や不動産などの比率を上げる）、融資や投資が増える、安全資産での運用が困難になる、といったことが挙げられます。一方で他のものと同様に、本来の狙いとは別に副次的に発生する副作用もあり、その代表格は通貨高抑制効果です。金利を下げるなどの金融緩和は自国通貨高（日本であれば円高）を抑え、自国通貨安を招く性格をもちます。ただし、今回の日銀のマイナス金利導入は通貨安が目的ではなく、通貨安が生じてもそれはあくまでも副次的な効果、ということになります。

マイナス金利が導入された2月16日以降の日本の金融市場を見ると、まず株式市場は概ね堅調です。J-REIT市場も同様です。為替市場はドル／円レートで見ると、一進一退の攻防が続いていてはっきりとした傾向は現れていません。大きく変わったのはやはり国債・金利市場です。短期金融市場では無担保コールレートはマイナス金利となり、レポレートは翌日物から1年物まで全てマイナス金利となりました。コール市場は急速に収縮し、マイナス金利導入発表前までは毎日20兆円以上あった取引が5兆円前後まで減少し、1／4～1／5程度の市場規模となってしまいました。

日本国債の利回りはマイナス金利導入発表前までは4年物まではマイナス金利、5年物以上はプラス金利、となっていましたが、マイナス金利発表と同時に8年物までがマイナスとなり、マイナス金利導入後の2月24日以降は10年物まで全てマイナス金利という状況が続き、少しでも金利を得ようとして更に長い国債を買い求める動きが15年物から40年物までの超長期国債の利回りも大幅に低下させてきました。

こうしたことが、国債や短期金融商品などの安全性の高い資産での運用を困難にし、MMFの販売停止や償還、新規申し込み分の保険料率の引き上げや募集停止などの影響を招いています。安全性の高い運用に対するニーズは非常に大きいため、今後も広範囲に影響を与えると考えられます。金融機関だけでなく、個人にも安全性の高い運用のニーズは大きくありますが、マイナス金利の導入は安全資産運用を困難にするという大きなインパクトがあることを肝に銘じる必要があります。

コラム執筆：ジョン太郎

金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「外資系金融マンがわが子に教えたい「お金」と「投資」の本当の話」、「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。