マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
これまで3回にわたり債券や国債について、そのリスクや利点について見てきました。しかし現在、皆さんが最も関心があるのは欧州の債務危機を受けた欧州各国の国債、そして格付け会社により格下げされた米国債、そして何より日本国債の先行きについてかと思います。
ギリシャの債務問題を発端とする欧州の信用不安に対しては、2011年10月23日と26日の欧州の首脳会談を経て、ギリシャに対する支援の強化、国債を大量に保有している欧州の銀行に対する資本強化策などが打ち出されると思われます。しかし、これは根本的な解決策になるとは思えません。格付けが最上位のフランスの国債の格下げが懸念されるなど、欧州の信用不安は、今後さらに広がりを見せる可能性があります。これはいったん失われた国債に対する信用を回復するのがいかに難しいのかを示していると思います。
8月に格下げされた米国債については、いまだに高い信用力を保持しています。米財務省の統計によると8月に中国が米国債を大量に売却していたことが明らかとなり、ニュースでも報じられました。しかし、このデータを良く確認すると、中国の売却額以上に英国やスイスが米国債を大量に購入していたことがわかります。これは欧州の信用不安などにより、資金がより安全性を求めて米国債に流入していたことなどが主な要因です。中国による米国債の売却も格下げを嫌気したというよりも、中国が大量に保有している外貨準備の運用の多様化を意図したものでしょう。
そして、最も注目すべき日本国債の今後についてですが、現状はあまり楽観視してはいけないものの、悲観的すぎてもいけないと思います。今年度の第3次補正予算により復興債が11兆5500億円発行されます。これにより、国債や借入金などを合計した国の借金は今年度末に1000兆円を突破することが明らかとなりました。これだけ巨額の債務を抱えている日本ですが、現在のところ国債は順調に消化されており、10年国債の利回り、つまり日本の長期金利は1%近辺と非常に低い水準で推移しています。これを見てもおわかりのように、今すぐ日本の財政がおかしくなるような気配はありません。
現在の日本の国債はその95%近くを国内資金で賄われています。デフレという状況下にあり、資金はより安全性の高いものに流入しやすい状況となっている上に、銀行なども貸し出しが伸びず、余剰資金を抱えた企業も国債投資を増加させてきました。日本の経常収支が黒字となっていることで、政府の債務を民間でカバーできる構図となっています。
しかし、ここまで国の借金が膨らみ、しかもその借金の増加速度が落ちないとなれば、いずれ国内資金で国債が賄えなくなる日が訪れます。その際に日本の国債市場は大きな転機を迎えるでしょう。それがいつくるのか、何が相場の転機のきっかけになるのかは、債券市場のプロ達も実ははっきりとはわかっていないのが実情です。ただし、現在のままで行くと、それが10年以上先になるであろうという見方は少ないようです。それまでに国債の残高の膨張を抑えるための財政再建をどのように進めるのか、同時にデフレ脱却も進めることも重要となることで、政府はかなり難しい課題を抱えているといえるでしょう。
コラム執筆:久保田博幸
1958年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学法学部卒。証券会社の債券部で約14年間、国債を中心とする債券ディーリング業務に従事する傍ら、1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。専門は日本の債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策について詳しい。現在、金融アナリストとしてQUICKなどにコラムやレポートを配信している。また、「牛さん熊さんの本日の債券」と「牛熊ウイークリー」という有料メルマガを配信中。日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『日本国債は危なくない』(文春新書)、『ネットで調べる経済指標』(毎日コミュニケーションズ)、『短期金融市場の基本とカラクリがよーくわかる本』(秀和システム)、『債券と国債の仕組みがわかる本』(技術評論社)など多数
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