マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
これからの資産運用・管理において為替とどういう視点で付き合えばいいか。本日から5回にわたり、オムニバス形式でお話ししようと思います。
「為替」あるいは「円相場」と言った途端、未だに思い出すエピソードがあります。もうかれこれ10数年前のことです。当時、韓国の大手証券会社東京支店駐在の支店長K氏と親しくお付き合いしていたことがあります。彼が京都のD大学経済学部の修士論文を仕上げるとき、その日本語訳を手伝ったのが縁でよく飲み歩いたものです。
あるとき私は彼に次のように言いました。「Kさん。日本では外貨建て資産を持つことに躊躇する人が未だに多い。どう思われますか」と。すると彼は予想通り「うらやましいですね。自国通貨だけを持っていれば安心というメンタリティは私の国にはありませんから」と言ってニヤリと笑ったのです。
周知の通り、韓国は1997年にタイバーツ暴落の影響を受け猛烈なウオン安に見舞われました。当然国内インフレ率は急上昇し、金利も高騰、経済は壊滅的な状態に陥りました。さてこんな時にウオンだけしか持っていない人はどれだけみじめだったか。実は世界中のほとんどの国が似たような経験をしてきたのです。
1980年代以降ブラジルが、さらにはメキシコやアルゼンチンなどが自国通貨安でどれだけ苦しんだか。あるいは1997年から翌98年にかけて東アジア諸国そしてロシアがどれだけの悪性インフレに苦しんだか。欧州でも英国、イタリア、スペインなどほとんどの国は例外なく自国通貨急落による危機的な経済状態を経験しています。まさに、自国通貨しか持たないことがどれだけ情けないかが身に沁みているのです。
ところが、日本円は1ドル=360円から75円台(本コラムのメールマガジン掲載日2011年11月1日15時現在では1ドル78円台となりました。)まで、長期上昇トレンド続きました。つまり、円安インフレが庶民の生活を直撃したという経験を私たちは持たなくて済んだのです。だからこそ私たちは「自国通貨を持っているのが安全、外貨保有はリスキー」と思い込めるのです。さて、こうした感覚が世界の常識からどれだけ遊離しているか?冒頭のK氏の「ニヤリ」は、彼一流の皮肉だったのです。
ところで、多くの人が予感している通り、これから数年~10年といえば、円安に転じる可能性がかつてなく高まる時期だと考えられます。であれば、「自国通貨だけしか持たないことのリスク」をそろそろ本気で考えるべきです。外貨保有の基本は「増やす=投資」ではなくむしろ「リスクを回避する=ヘッジ」なのです。
ちなみに日本の家計金融資産1,400兆円のうち、外貨建て資産はせいぜい30数兆円(外貨預金5.6兆円、国内投信のうち外貨建て資産組入れ18兆円、外国証券9.2兆円=以上日銀の資金循環勘定による)と推測されます。1,400兆円の3%にも満たないのです。ああ、この状態で円安が本格的に進行、輸入インフレと金利高騰が起きたら、日本の家計経済の混乱はいかほどであろうか、と思うのです。
コラム執筆:角川総一
(株)金融データシステム代表取締役。1949年大阪生まれ
金融教育、金融評論家。
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