マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
J-REITの価格は、堅調に上昇しています。東証REIT指数は12月19日に年初来高値を更新し、1,084.72ポイントを付けました。12月21日に上場する物流施設に特化して投資するGLP投資法人(証券コード3281)は、上場にあたり1,000億円以上の資金調達を行いました。この点は需給面で見れば、J-REIT市場には逆風とも言える状態でしたので市場全体としては上昇基調にあると考えられます。
なお、価格の上昇に伴って大和ハウス・レジデンシャル投資法人(証券コード8984、以下DHR)は来期から(2013年3月1日)投資口を2分割することを12月17日に公表しました。上場前や合併により投資口を分割する銘柄はありましたが、実質的にDHRは上場後に投資口の分割を行う最初の銘柄となりました。12月19日終値でDHRの株価は657,000円ですので、投資口が2分割されることで個人投資家にとっても購入しやすい価格になりそうです。また複数の投資口を購入した場合は、一部投資口の売却も行いやすくなりますので個人投資家にとってDHRの投資口分割はメリットがあるものと筆者は考えています。
さて今回は、来年以降導入が予定されている制度改正のうち「投資主割当増資」について記載していきます。「投資主割当増資」とは、株主割当増資(ライツイシュー)と同様に新投資口の発行にあたり、新投資口の割当を受ける権利(新投資口割当権)を既存の投資主に与えて行う増資のことです。現在導入が予定されている制度では、新投資口割当権を上場させることとしています。これにより投資主は、増資に応じて資金を払込みするか、または新投資口割当権を売却すること選択できることになります。J-REITの増資方法は、いままでは公募増資か第三者割当増資しかありませんでしたので、これにより資金調達手法が増えることになります。
この制度の最大のメリットは、増資前後を通じて既存投資主の持分割合に大きな変化が生じないことです。原則として利益の大半を投資家に分配するJ-REITは、株式市場以上に増資による希薄化の影響を1口あたり分配金の減少という形で直接受けます。特に低い価格で増資をおこなった場合には顕著に希薄化の影響が生じることになります。
いままでは株価が低迷している中で資金調達が必要になった場合は、実質的に第三者割当増資を行うしか手法がありませんでした。この場合、第三者割当先となった投資家は低い価格で投資口を取得できるため希薄化が起こっても高い利回りを享受することが可能です。一方で既存投資主は、希薄化の影響で1口あたり分配金が減少し利回りが低下するというデメリットが生じることになるのです。
株主割当増資は、低い株価で増資を行っても増資に応じた投資主は、投資口単価が低くなるため利回り低下の影響を少なくすることができます。また増資に応じない場合でも新投資口割当権の売却でキャピタルゲインを得ることができるのです。
ただし、価格が堅調な現状ではこの制度を当面導入する銘柄はないものと考えられます。その最大の理由は、J-REITが一般企業とは異なり比較的短い期間で増資を行うという特徴があるためです。例えばジャパンリアルエステイト投資法人(証券コード8952)は、2012年2月に1口672,750円、10月に1口746,850円で増資を行っています。もし株主割当増資での資金調達であったとすると投資主は、増資に応じるために1年間に140万円以上の資金が必要となるのです。また株主割当増資は、時価より低い価格で発行される場合が多いとされていますので、公募増資と比較すると同じ資金調達額でも投資口の発行口数が増加するため1口あたり分配金が減少するというデメリットもあります。
このような点から投資主割当増資は、当面は株価の低迷が続く中で資金調達に必要で生じた場合という緊急避難的な局面で利用されることになりそうです。ただし、株価が堅調なこの時期に将来生じる可能性がある事態に備えた制度改正が行われるという点を筆者は高く評価しています。
コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介
<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>
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