マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
J-REITの価格は、前回の連載(4月18日)以降、安定的な値動きを続けています。4月19日から5月1日までの東証REIT指数は、下値1582.73(4月26日)、上値1621.49(4月19日)と1,600ポイントを挟んだ値動きに終始しています。
年初からJ-REIT価格の上昇を牽引してきた日銀の金融緩和ですが、当面はさらなる追加緩和は期待できない状況です。日銀は、4月4日に公表した施策の効果を当面見守るという姿勢であるためです。J-REITの価格動向にとってポジティブ・サプライズがあるとすれば、J-REIT買入れ枠増加だけの金融緩和の実施となります。日銀は2013年、2014年にそれぞれJ-REITを300億円買入れするとしていますが、4月末時点で2013年の買入れ額は227億円にもなっています。4月単月で132億円もの買入れを実施していることを考えると、残り8ヶ月で73億円(300億円―227億円)の枠では、あまりにも少なくなっているためです。一方でJ-REITの買入れ枠増加は、従来は他の金融緩和とセットで行われてきました。従って日銀は、J-REITの買入れ枠増加を行わない可能性が高いのです。このような点から見て日銀の5月以降のJ-REIT買入れ動向には注意が必要です。
さて、今回は今後のJ-REITの新規上場の動向について記載していきます。それは、今後のJ-REIT市場の動向を左右する要素を多くもっているからです。現在、J-REIT市場に参入するとされている企業として、流通大手のイオン、宿泊施設の再生で名高い星野リゾート、みずほ銀行系の不動産会社であるヒューリック、シニア施設に対する融資実績が多い新生銀行などの名前が取りざたされています。この中で投資用途という面では、星野リゾートが旅館、新生銀行が有料老人ホームやシニア向け住宅を含めたヘルスケアという既存銘柄にはない分野に踏み込むことで、J-REIT市場の多様化に繋がりそうです。
また、イオンが組成するJ-REIT(以下、イオンREIT)は、J-REIT市場の拡大にとって最も大きな影響を与えることになりそうです。その理由は、運用会社のスポンサー(主要株主)であるイオンが、主要テナント(実際に物件に入居しているテナントのこと)でもあるためです。上場している既存銘柄でこのような仕組みとなっている銘柄はありません。その最大の理由は運用会社の社長を含め主要な人員がテナントでもあるスポンサー会社からの出向者であるという事態になるためです。
この事態はイオンREITの投資家から見れば、テナントと運用会社との間の賃料交渉の際に資産運用会社の社員がスポンサーのために賃料を減額するなどの利益相反の懸念が避けられないことになります。従ってイオンREITは、10年以上の固定賃料契約や売上に連動した歩合賃料契約など、透明性の高い契約をテナントと締結する必要性が高くなるのです。この点はスポンサーであるイオンから見れば、上場のためのハードルが高くなることを意味します。
しかし、イオンREITが投資家から高い評価を受ければ、ガス会社などのインフラ系企業や製造業の企業にもJ-REIT組成の動きが広まる可能性が高くなります。これらの企業は、既存銘柄に対して物件売却を行うことはほとんどありません。その理由は、アメリカのREITで採用されている、物件売却益課税の繰延べという「UP-REIT制度」がJ-REITにないことだけはなく、自社利用設備などの更新や入替えなどを外部の会社であるJ-REITには委託することが難しい面があるためです。J-REITから見ても、テナントが突然設備の廃棄と新規の設備投資を求めてきた場合は、廃棄による除却損失が発生し新規投資という資金流出も起きることになるため、決算に大きな影響がでる可能性があるのです。しかし、自社がスポンサーとなっている運用会社であれば、そのような欠点は大きく解消されることになりますので、多くの企業がREIT参入のメリットを検討することになりそうです。
但し、当初比較的早い段階での上場が想定されていたイオンREITは、スポンサーであるイオンの2013年2月期決算説明(4月11日公表)によれば、「今年度中にはREITを上場させたい」としているため、時間がかかることになりそうです。従って、星野リゾートが組成するREIT(以下、星野リゾートREIT)が、今年度最初の上場銘柄になりそうです。星野リゾートREITは、イオンREITと同様にJ-REITを上場させるための必須条件である資産運用会社の登録を既に行っているためです。
コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介
<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>
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