マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
J-REITの価格は、8月に入り安定的になっています。東証REIT指数は8月になってから1,350ポイントを挟んだ展開で推移しています。但し、7月は1,400ポイント前後の価格推移であったことを考えると東証REIT指数のレンジはやや切り下がっていることになります。J-REIT投資に対する需要は、高い状況とは言えません。いわゆる「夏枯れ」の時期でもあり、またオフィス賃貸市況の大幅な改善などの需要にとって追風となる要因がないためです。従って当面のJ-REIT価格は、株式市場の動向、特に為替動向に左右される展開が続きそうです。
さて今回は、7月26日に公表された東急リアル・エステート投資法人(証券コード8957、以下TRE)の増資(以下、今回の増資)について記載して行きます。TREは東急電鉄が100%スポンサーとなっているオフィスビルと都市型を中心とした商業施設に投資を行う複合型銘柄です。
TREの投資方針上の特色として一点目に、用途バランスを重視した複合型銘柄ということが挙げられます。TREは投資方針としてオフィスと商業施設の割合をそれぞれ60%程度と40%程度としています。TRE以外のオフィスに投資を行う複合型や総合型の銘柄では、比較的オフィスの比率が高い銘柄が多くなっていますので、TREは複合型や総合型の中でも特色のある銘柄と言えるでしょう。
二点目の投資方針上の特色は、投資地域として首都圏特化を打ち出している点です。オフィスを投資対象とする銘柄の大半は、主要な投資地域を首都圏としていますが、その他に関西圏や中京圏、地方都市にも投資可能としています。TREと同様に首都圏特化の投資方針を示していたプレミア投資法人(証券コード8956)は、規約の改正を行い首都圏以外の地域に対する投資を可能としています(※1)ので、TREは投資方針としてJ-REIT唯一の首都圏特化を示している銘柄となっています。
今回の増資は、TREとって2005年以来8年ぶりとなりました。増資資金及び借入金により8月16日に都内の商業施設1棟とオフィスビル2棟、合計3棟を254億円で取得する予定です。TREは物件価格が上昇期の転じるサイクルで積極的に物件を取得し、高騰期には保有物件の一部を売却してキャピタルゲインを確保しながら物件の入れ替えを行うという「長期投資運用戦略」を持っています。従ってTREは、今後不動産価格が上昇するという考えに至ったものと考えられます。
また増資に伴い公表した第21期(2014年1月期)及び第22期(2014年7月期)の業績予想に拠れば、1口当たり分配金は第21期に12,400円、第22期に12,500円となっています。TREの実績分配金は、第13期(2010年1月期)に物件売却益が大きく寄与しJ-REITでの最高額となる79,446円という事例がありましたが、第18期(2012年7月期)及び第19期(2013年1月期)は過去最低水準の12,000円以下となっていました(※2)。従ってTREは、今回の増資により1口あたり分配金の面で見れば、回復傾向を投資家に示したことになります。
しかし、投資家の評価は、現時点までの価格動向を見る限りやや厳しい見方になっているようです。TREは1月/7月決算銘柄ですので、前述の増資公表日である7月26日は権利確定日にあたります。従って翌営業日以降は権利落ちとなるため、価格は一般的に下落することになりますが、TREの価格は図表の通りTREと同じ1月/7月決算の他銘柄と比較しても最も下落しています。今回の増資は、価格下落に伴い発行価額(払込み額)が1口当たり476,652円となりました。TREの増資前の1口当たり出資額は578,697円でしたので、今回の増資は増資前の1口あたり出資額を下回る「ディスカウント増資」という結果です。
ただし、前述の通りTREは1口当たり分配金に関して増加を見込んでいる点やディスカウント増資となりましたが、増資後の1口当たり出資額は565,054円(※3)と3%弱程度の低下に収まることから、既にTREを保有している投資家にとって大きな悪材料ではないと考えられます。
またTREへの投資を検討している投資家にとっては、価格下落に伴い予想分配金利回りが高くなっている点から投資妙味がある時期と考えられます。TREの予想分配金利回りは、4.89%(8月14日時点)ですが、J-REIT全体の利回り3.95%と間には0.94%の利回りの乖離が生じています。今年2月から7月までの6ヶ月で見るとTREとJ-REITの利回り乖離は平均で0.4%程度でしたので、現状の利回り乖離幅は比較的大きなものになっているのです。
※1:プレミア投資法人は、本稿時点では首都圏以外の物件取得実績はないため保有物件としては首都圏特化型のままとなっている。同様に森ヒルズリート投資法人(証券コード3234)も首都圏(全物件が23区内)となっている。
※2:上場決算期である第1期の実績分配金は9,488円であるが運用日数が短いため半年換算すると12,000円を超える。
※3:第三者割当が全投資口発行された場合の数値。
コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介
<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>
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