第58回「米国初のETFは創造と忍耐の産物」 【ETF解体新書】

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第58回「米国初のETFは創造と忍耐の産物」 【ETF解体新書】

こんにちは。晋陽FPオフィス代表のカン・チュンドです。今から遡ること21年前、1993年に、米国初のETFが上場を果たしました。その名は「スパイダー S&P500 ETF」(SPY)です(当時は、Standard & Poor's Depositary Receipts(スタンダード・アンド・プアーズ預託証券)と呼ばれていました)。実は、ETFのアイデアはコモディティの世界に精通する、ネイサン・モスト氏(1914-2004)によって生み出されたものです(モスト氏はアメリカン証券取引所の「商品オプション部」のトップでした)。競争が激しい証券取引所の世界で、アメリカン証券取引所は上場株式数の低下に悩んでおり、新たな金融ツールを開発する必要に迫られていたのです。モスト氏のコンセプトは、「株価指数に連動する銘柄を証券市場に上場させる」というもの。実は1988年当時、「スパイダー S&P500 ETF」に先がけて、複数の指数連動商品が上場していたのですが、商品取引所から異議申し立てがありました。「これらのツールは証券ではなく、事実上指数先物商品であり、先物市場で取引されるべきものだ。」と。これに対してミューチュアルファンド(投資信託)の業界団体「米国投資会社協会」は反論します。「いいえ、これらのツールは1940年投資会社法によるファンドと解されるべきだ・・。」

ETFは上場投資信託と訳されますが、実は株式市場に上場する投資信託は以前から存在しました。CEF「クローズド・エンド・ファンド」と呼ばれるものです。しかし、CEFは「市場価格」と「理論価格」の乖離がしばしば見られ、また一度設定した口数を変更することが出来ませんでした。そこでモスト氏は新たな金融ビークルを、投資信託の一形態である『ユニット・インベストメント・トラスト』(UIT)として組成することを画策します。UITはひと言でいうと、密封された『倉庫』のようなもの。「スパイダー S&P500 ETF」(SPY)という倉庫内では、固定的なポートフォリオが保有されます(S&P500が組み入れる500社の株式)。その代わり、UITでは株の貸出が出来ません。また、個々の株式から得た配当金は再投資できず、ETFの分配金のために倉庫内で現金としてプールされます。しかし、UITというビークルでは、「ファンドマネージャー」、「取締役」が必要なく、継続コストを抑えることが可能でした。あとは、倉庫内の株式バスケットを管理する『受託会社』を探すだけだったのです。

1990年、ネイサン・モスト氏は、ステート・ストリートのダグラス・ホームズ氏と出会います。この瞬間から、アメリカン証券取引所とステート・ストリートは『合同チーム』となり、法律事務所とも連携しながらETFという金融商品の誕生に邁進することになります。CEFで見られた「市場価格」と「理論価格」の乖離をなくすために、ETFは裁定取引のしくみを内包する必要がありました。裁定取引を可能にするためには、ETFが組成される現場(発行市場)で、通常の投資信託と同じように、口数を増やしたり、減らしたりすること(設定・交換)を可能にする必要があったのです。これらのニーズから、ETFの裏方を担う指定参加者(AP)という概念が生まれました。モスト氏率いる合同チームは、SEC(米国証券取引委員会)にETFの上場申請を行いますが、米国初のETF、SPYが上場の承認を受けるまでに4年近くの歳月を要したのです。


コラム執筆:カン・チュンド

晋陽FPオフィス代表  http://www.sinyo-fp.com/

2000年にFP事務所を開業以来、資産運用に特化したセミナー、コンサルティング業務を手がける。

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