マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
J-REIT価格と株式市場の乖離が広がっています。5月末時点で東証REIT指数の年初来騰落率は2%弱の下落ですが、日経平均株価は17%以上の上昇になっています。ただし、J-REITの分配金利回りは3.1%程度と市場の歴史の中では低い水準(価格は高い)となっていますので、見方をかえれば高値の中でも安定しているということもできます。
このような状況を追い風にして6月30日にサムティ・レジデンシャル投資法人(証券コード3459)が上場する予定です。上場時のポートフォリオは賃貸住宅28棟、資産規模305億円となっています。スポンサーのサムティはジャスダックに上場(証券コード3244)しており、関西を中心にマンションの開発やファンド事業を行う会社です。
さて今回は(※1)5月27日に公表された野村不動産系の3銘柄合併(以下「この合併」)について記載して行きます。具体的には、野村不動産ホールディングス(証券コード3231)が100%出資する野村不動産投資顧問が運用を行っているオフィス投資の野村不動産オフィスファンド投資法人(証券コード8959、以下「NOF」)、賃貸住宅投資の野村不動産レジデンシャル投資法人(証券コード3240、以下「NRF」)、物流施設・商業施設投資の野村不動産マスターファンド投資法人(証券コード3285、以下「NMF」)の3銘柄が、各銘柄の投資主総会の承認を条件に新設合併し、10月に総合型銘柄として新たなスタートを切ることになります。
新設投資法人の名称は、野村不動産マスターファンド投資法人(証券コードは新たに付与されます、以下「新NMF」)、決算期はNMFと同様の2月/8月決算となります。合併比率はNMF1:NOF3.6:NRF4.45となっていますので、例えば合併前にNOFの投資口1口を保有していれば合併後は新NMFの投資口3.6口が投資家に割当てされる(※2)ことになります。
この合併は3銘柄での合併ということだけでなく、「正ののれん(以下「のれん」)」が生じる初めての事例となります。「のれん」は、昨年度まではJ-REIT合併の障害となっていました。「のれん」は、無形固定資産として資産勘定に計上され、その償却を会計上では20年間で行うことになります。つまり「のれん」を計上すると「のれん償却費」として費用が増加します。一方で「のれん償却費」は昨年度までは税務上は費用と認められていませんでした。つまり「のれん」を計上すると税務上と会計上の利益が異なるという税会不一致が生じます。
一般の事業会社の場合には税会不一致は通常発生し、法人税等調整額で処理しますが、利益の90%以上を分配することで実質的に法人税が課税されないJ-REITにとっては大きな障害となるのです。しかし、平成27年度に税制改正によってJ-REITでは、「のれん償却費」を投資家に分配することで税法上も費用とすることが可能となりました。つまり今回の合併は、この税制改正があったことで実現したと言えます。
合併のメリットは、3銘柄が開示した「合併説明会資料」(※3)(2015年5月27日付け、以下合併資料)によると運用の柔軟性が増すことにあると考えているようです。合併資料では個別の3銘柄で運用するより合併し総合型となることで、収益の安定性と成長性の両面が追求できることや3銘柄が投資対象としていないホテルや工場など投資用途の多角化が可能となり投資機会が拡大するとしています。従って新NMFは、物件取得による外部成長を加速していくものと考えられます。
新NMFの1口当たり予想分配金は、通常の6か月決算となる第2期(2016年8月期)に2,710円となっています。合併資料のP.4ではこの分配金水準は、合併前の3銘柄のそれぞれの分配金を上回るものになるとしています。ただし、新NMFは前述の通り「のれん償却費」を利益超過分配することを前提とし、第2期では1口当たり537円が含まれていることには留意が必要です。
なおこの合併の背景や投資家のメリット・デメリットについては改めて取り上げたいと考えています。また前述の通り、この合併は投資主総会で2/3以上の賛成が必要な特別決議事項となります。投資主総会までにこの合併に反対する提案などがない場合は、議決権を行使しない場合には「賛成」となるみなし賛成制度が適用されますので、投資主はご注意ください。
※1:前回の連載時に予告したJ-REIT市場の増資動向では、改めて7月以降に上半期の動向として記載する予定です。
※2:1口未満の投資口は、市場で売却されその売却代金が投資家に交付されることになりますので、実際には3口と0.6口分の売却代金の交付となります。
動向として記載する予定です。
※3:3銘柄とも同じ資料を掲載しているが例えばNOFでは
http://www.nre-of.co.jp/merger/pdf/mergerpresentation.pdf
に掲載されている。
コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介
<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>
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