マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
今年に入って世界の株価は大きく下落しています。市場環境に急激な変化があったようには見えませんが、米利上げの影響は小さくなかったようです。米国のマネタリーベースやワールドダラーの減少が結果的に株価の下押し圧力になったと考えられます。昨年12月の米雇用統計の内容はきわめて強かったのですが、新規失業保険申請件数はすでにピークアウトしています。また、米国株と連動性が高いISM製造業景況感指数は悪化傾向が顕著です。雇用がピークを迎えているとすれば、今後の株価反転には時間が掛かりそうです。
また市場では、原油価格が下げ止まらないことが、株価下落の要因との声が多く聞かれます。原油については、OPECや米国の原油生産量や中国の需要減退などの現物の需給要因よりも、ポジション需給を見ておくとよいでしょう。原油価格の下落局面で、投資家は原油ETFを買い下がりました。その結果、ETFの資産は積み上がっています。これらの残高が先物市場での買いポジションによりヘッジされています。相場浮揚には、これらのポジション解消が不可欠ですが、米商品先物取引委員会(CFTC)が毎週発表しているポジション状況によると、ポジションはかなり解消されています。したがって、原油価格の反転は近いのかもしれません。そうなれば、米国市場を中心に株価は一時的に持ち直すかもしれません。その場合、株価も同時に戻すのでしょうか。短期的には株価の買戻し材料になるでしょう。しかし、原油価格は反転すれば、製造業を中心に企業の活動コストが確実に上昇します。もちろん、これが業績を圧迫することは言うまでもありません。そのため、原油価格の反転は中長期的には株価の圧迫要因になると考えています。
15年10~12月期の決算発表が始まりました。トムソン・ロイターのデータでは、S&P500採用企業の昨年第4四半期決算は前年同期比4.2%減益になったと見込まれており、これが株価の重石になっているようです。一方、S&P500採用銘柄の16年の一株当たり利益は124ドル程度が予想されているようですが、PER14倍まで低下すると仮定すれば、S&P500は1736となり、14日の終値からさらに9%程度の下落余地があることになります。PER15倍で計算しても1860ですから、やはり上値を買えない水準にあるということになります。ましてPER16倍となれば、1980となりますので、ますます買いづらいといえます。株価がPER14倍から16倍を中心に変動するとすれば、S&P500が1750を割り込んだところで買うかどうかを検討すればよいと考えます。
配当利回りの観点からは、米国株は非常に割安感があり、リスクプレミアムが急伸しているとの指摘も聞かれます。現在の10年債利回りが2.10%を割り込む一方、予想配当利回りは2.29%であり、配当利回りが上回っています。長期的にみれば、配当利回りが10年債利回りを上回るのはきわめてまれな現象で、最近では11年前後に見られたに過ぎません。そして、この現象は株価の大幅上昇で解消されています。長期的には、現在の水準は買い場といえそうですが、買うにはもう少し待ってみたほうがよさそうです。というのも、ダウ平均株価と連動性の高い運輸株指数は7,000ドルを割り込んだからです。前回の本欄で指摘したように、ふたつの指数の相関の高さを前提に、運輸株指数から算出されるダウ平均株価の理論値は1万5,000ドルにまで低下しています。米国株にはまだ相当の調整余地があると思われます。
江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草出版)
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