第95回 ~変動するJ-REITの投資家動向と今後への影響~【J-REIT投資の考え方】

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第95回 ~変動するJ-REITの投資家動向と今後への影響~【J-REIT投資の考え方】

J-REIT価格は、株式市場変動の影響をあまり受けず安定的に推移しています。前回の連載(3月17日)以降の東証REIT指数を見ると、4月1日には下落幅が大きくなりましたが、それ以外の期間は1,900ポイントを挟んだ展開となっています。
今後のJ-REIT価格も堅調な推移が想定できる状況ですが、3月の投資家売買動向を見ると2013年4月に黒田日銀総裁が就任し、マイナス金利を打ち出した2016年1月まで(以下、この期間を「マイナス金利導入前」とします)とは異なる様相を示しています。今回は、大きく異なった点とその影響について記載します。

東証が公表した3月の部門別差引き売買統計(以下、差引き売買額)を見ると、外国人投資家と投資信託の差引き売買額は、マイナス金利導入前とは異なるものとなっています。
まず外国人投資家ですが、前回の連載でも記載した通り日銀が金融緩和策を打ち出すと単月では大幅な買越しとなるものの、その傾向が続くことはありませんでした。しかし、外国人投資家は3月に832億円と2月の1,167億円に続き大幅な買越しとなりました。2月の買越し額は2007年2月に次ぐ過去2番目となりましたが、3月の買越し額は過去3番目となる金額です。外国人投資家は、2か月連続の大幅買越しというマイナス金利導入前とは全く異なる投資を行ったことになります。
次ぎに投資信託ですが、マイナス金利導入前は主要な買越し主体となっていました。具体的には、図表の通り2013年と2015年には最大の買越し主体となっています。ところが2月は過去最大となる583億円、3月に2番目となる485億円の売り越しに転じています。投資信託は、マイナス金利導入前は価格が大幅に上昇した時などには売り越しとなる月もありましたが、100億円を超える売り越しを2ヶ月連続で行ったことはありません。また、このような投資信託の大幅売り越しが続くことは、2003年4月に統計が公表されてから初めてとなります。

このように投資家の売買動向が変化した要因は、日銀の金融緩和策が円安に結びつかなくなったことが背景にあると考えらます。外国人投資家から見れば、J-REIT投資を行う上で障害となっていた円安による為替差損の懸念が少なくなっています。さらに日本の上場株式とは異なりJ-REITの1口当たり分配金の動向を見れば業績懸念が少なく、マイナス金利の拡大が実施されれば業績の更なる改善や価格上昇の可能性が高いということで投資が拡大している可能性があるのです。
一方で、投資信託は為替が円高に転じたことで株式市場の低迷が長引くと見ているため、大幅な売り越しに転じたものと考えられます。投資信託の総売買金額は2月と3月の月平均が2,300億円に達し、2015年の平均値1,335億円に対して大幅に増加していますので買い手がいなくなったという状況ではありません。
しかし、投資信託は、実質的には個人投資家の資金の流れとも言えます。日経平均株価が2014年10月の日銀による第二弾金融緩和前の水準まで下落し当面の改善が見込めなくなったため、投資信託を通じて流れ込んでいた個人の資金は利益確定の売り越しという影響が出ている可能性があるのです。

主要な投資家の動向が変化した影響は、J-REIT価格が大幅に下落した時に出ることになりそうです。これまで筆者は、当面のJ-REIT価格は株式市場の混乱によって一時的な下落があっても回復を示すという見通しを持っていました。しかし主要な買い手であった投資信託の動向が不透明になったことで、価格の下落幅が大きくなるだけでなく反転するまでに時間を要するリスクが高くなったと考えています。
なお金融機関(日銀を除く)は、マイナス金利導入後の2月、3月にそれぞれ205億円、106億円の売り越し(日銀の買入れ額控除後)となっています。この時期は金融機関の決算期前であり、株式市場が不安定な時期ともなっていましたので、J-REITへの利益確定の動きは自然なものと言えるでしょう。ただし、4月以降も売り越しが続くようであれば、J-REIT市場は外国人投資家頼みの市場に変貌したことになります。このような点から東証が公表する部門別売買動向(※)には、注意を払う必要がありそうです。

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※J-REITの部門別売買動向は毎月第8営業日の午後3時に下記URLに公表されます。http://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/investor-type/03.html
コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介

<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>

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