第98回 大和ハウス工業系2銘柄の合併による収益への影響とデメリットについて 【J-REIT投資の考え方】

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第98回 大和ハウス工業系2銘柄の合併による収益への影響とデメリットについて 【J-REIT投資の考え方】

J-REIT価格は、5月中旬を過ぎてからやや軟調になっています。東証REIT指数は、5月10日に1,947ポイントまで上昇していましたが、その後は1,900ポイントを挟む展開が続いています。
なお5月19日に日銀が12銘柄(※1)の大量保有報告を提出しました。2015年12月に公表した金融緩和補完措置によりJ-REITの個別銘柄の保有割合を5%から10%以内に変更した時点で想定されていましたが、5月13日に日銀が12億円買入れを行ったことで5%を超える銘柄が生じたことになりました。

さて前回予告した通り、4月15日に公表された、大和ハウス工業がスポンサーとなっている大和ハウス・レジデンシャル投資法人(証券コード8984、以下、大和レジ)と大和ハウスリート投資法人(証券コード3263、以下、大和リート)の合併により9月に誕生する大和ハウスリート投資法人(証券コード8984、以下、新大和リート)関して収益への影響とデメリットについて記載して行きます。

まず収益への影響ですが、1口当たり分配金は合併関連費用がなくなる2017年8月期に4,700円になるとしています(※2)。この金額は、合併前の当期(2016年8月期)予想と比較すると大和レジは4.2%、大和リート14.9%とそれぞれ増加します。つまりこの合併は、既存投資家から見れば増配を伴うものとなります。
このように増配となる要因は、合併後に6物件を172億円で取得する効果が1口当たり196円、資産運用報酬などのコスト削減効果が1口あたり236円としています(※3)。コスト削減という合併のシナジー効果が、合併前と比較して増配となる大きな要因となっています。

また合併に伴い発生する「のれん償却額」は毎期11億円程度となります(※2)が、同額を大和レジがニューシティ・レジデンス投資法人と合併した際に生じた内部留保180億円弱を取崩して分配する方針です。のれんが発生する最初の合併となった野村不動産マスターファンド投資法人(証券コード3462、以下NMF)は、のれん償却額を一時差異等調整引当金に計上して分配する方針ですが、新大和リートは内部留保があるため、優先的に取崩を行う必要があるとのことです。従って新大和リートは、内部留保の取崩だけで7年以上はのれん償却額に対する充当を行うことができますが、その後はNMFと同様に一時差異等調整引当金を計上して分配金への影響を回避するものと考えられます。

なお内部留保の取崩は、のれん償却額と同程度を維持する方針を示しています(※3)。従って収益が増加すれば、そのまま分配金は増えることになります。
次に合併のデメリットですが、筆者は合併により新大和リートが大和リートの保有物件を鑑定価格で取得し大和リートの含み益330億円弱が消滅する点が大きいと考えています。現在の不動産鑑定は、リーマンショックのファンドバブル期を下回るキャップレート(※4)で評価しています。現在の異常な低金利政策が正常化すればキャップレートは上昇(不動産評価額は低下)することになりますので、大和リートの物件が将来は含み損失に転じるリスクが高くなったと考えられるためです。

また新大和リートは、合併によりオフィスやホテルを投資対象とする総合型で運用を行う方針です。大和レジは賃貸住宅、大和リートは長期固定契約の物流施設を中心、と両投資法人ともに収益の安定性が高い用途を投資対象としていました。当面はポートフォリオに占めるオフィスやホテルの割合が高くなることはないと考えられますが、今後は収益の変動リスクにも留意する必要性がありそうです。


※1:日本アコモデーションファンド投資法人(3226)、産業ファンド投資法人(3249)、アドバンス・レジデンス投資法人(3269)、ジャパンリアルエステイト投資法人(8952)、日本プライムリアルティ投資法人(8955)、東急リアル・エステート投資法人(8957)、ユナイテッド・アーバン投資法人(8960)、フロンティア不動産投資法人(8964)、日本ロジスティクスファンド投資法人(8967)、福岡リート投資法人(8968)、大和ハウス・レジデンシャル投資法人(8984)、ジャパンエクセレント投資法人(8987)の12銘柄。並びは証券コード順。
※2:2016年4月18日付「大和ハウス・レジデンシャル投資法人大和ハウスリート投資法人合併説明会資料」に拠る。
※3:「2016年4月18日開催合併説明会主な質疑応答(要約)」に拠る。
※4:不動産鑑定評価で使用される「還元利回り」のこと。想定収益をキャップレートで除することで不動産評価額を算出する直接還元法で用いられる。実質的に当該物件の期待利回りとも言える。

コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介

<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>

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