第99回 野村不動産マスターファンド投資法人とトップリート投資法人の合併について【J-REIT投資の考え方】

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第99回 野村不動産マスターファンド投資法人とトップリート投資法人の合併について【J-REIT投資の考え方】

J-REIT価格は、停滞感が強い状態になっています。東証REIT指数は、5月中旬から1,900ポイントを挟む展開が続いていますので安定的な値動きとも言えますが、終値が1,900ポイントを割り込む営業日が増えています。

さて今回は野村不動産マスターファンド投資法人(証券コード3462、以下NMF)とトップリート投資法人(証券コード8982、以下TOPR)の合併(以下、本合併)について記載していきます。NMFとTOPRは、5月26日にNMFを存続投資法人として9月に合併することを公表しました。合併比率はNMF1:TOPR2.62となりましたので、TOPRを1口保有している投資家は、合併後NMFの投資口2.62口が割当てされます。
NMFは2015年10月にスポンサーである野村不動産系3銘柄が新設合併(以下、前回合併)して誕生していますので、本合併はNMFにとって2回目の合併となります。また本合併に伴い、TOPRは8月29日に上場廃止となります。
NMFは、本合併によってジャパンリアルエステイト投資法人(証券コード8952)を抜き業界第2位の9,331億円(物件取得額ベース)まで規模が拡大(※1)します。また1口当たり予想分配金は、合併前の第2期(2016年8月期)2,760円に対して合併後の第3期(2017年2月期)に2,904円(※2)と5%程度の増配を想定しています。
ただし、TOPRの既存投資家からみれば前述の通り合併比率は1:2.62となっていますので合併により大幅な減配となります。TOPRの2016年10月期予想分配金は9,900円となっていましたので、NMFの第3期分配金を2.62倍しても7,608円にしかならないためです。また端数投資口は売却され投資家に売却代金を支払いますので、1口保有するTOPRの既存投資家は端数分の売却代金を得るものの、NMFの第3期で受け取れる分配金は5,808円(2904円×2口)となります。
このようにTOPRの既存投資家にとっては、厳しい内容となっていますが合併となった背景にはTOPRが抱えていた問題点があります。一つ目は、合併説明会資料(※1)にも記載されているスポンサー構成の問題です。
TOPRは三井住友信託銀行をメインスポンサーとし、その他に王子不動産(王子製紙の子会社)がスポンサーとなっています。上場当初は、この2社の他に新日鉄不動産(新日鉄住金の子会社)がスポンサーとなっていました。しかし新日鉄不動産がジャパンエクセレント投資法人のメインスポンサーである興和不動産と合併しTOPRのスポンサーから離脱したため、物件取得による外部成長が難しい状況が続いていました。
二つ目の問題点は、大口テナント退去による収益変動リスクが高くなっていた点です。特にイトーヨーカドー東習志野店(取得額89億円)は、2015年10月に40店舗の閉鎖を2020年2月までに行うことをイトーヨーカ堂が公表していたため、テナント退去リスクが高くなっていました。実際に合併公表後の6月3日に、テナントから2017年6月4日の退去通知を受けとっています。またポートフォリオにおける取得額第2位(330億円)の晴海のオフィスビルは、住友商事が2018年秋に大手町(東京)に移転する影響を受ける懸念が高くなっています。
一方でNMFの既存投資家にとっては、前述の通り分配金の増加をもたらす合併となります。またNMFはTOPRの保有物件をNOI利回り5.4%と既存ポートフォリオのNOI利回り4.9%(※3)より高い利回りで取得できる想定となっています。つまりNMFの投資家にとってはメリットが大きい合併と言えるでしょう。
TOPRの保有物件を高い利回りで取得できた背景には、TOPRの直近決算期(2016年10月期)に1,715億円強(※4)であった鑑定評価額が合併時に1,377億円まで20%近く低下する想定となっていることが背景にあります。NMFの資産会社としては、より低い価格で取得することがNMFの投資家にとってメリットとなりますので、本合併という事象だけを捉えれば問題視する必要はありません。
ただし、鑑定価格が不動産価格高騰時でさえ大幅に低下することがあるという点は、今後は様々な点に波及する可能性があると考えています。詳細につきましては、次回の連載(6月23日予定)で記載したいと思います。


※1:「合併説明会資料2016年5月26日」に拠る。
※2:5月26日付け「野村不動産マスターファンド投資法人とトップリート投資法人の合併後の平成29年2月期の運用状況の予想に関するお知らせ」に拠る。
※3:第1期(2016年2月期)の実績値を年換算したNOI利回り
※4:合併前に売却する1物件除外した金額


コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介

<本内容は、筆者の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>

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