第16回 米国債の動向に注意【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

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第16回 米国債の動向に注意【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

金融市場が不安定な動きになっています。市場関係者が考える当面の最大のリスクは、英国が欧州連合(EU)を離脱することによる市場の混乱です。23日には、英国がEUに残留するのか、あるいは離脱するのかを問う国民投票が実施されます。残留・離脱の双方のケースにおける市場動向の予測なども出始めています。これらの予測通りになる可能性もありますが、そもそも残留・離脱のいずれになるのかが不透明な状況です。あらかじめ予測をしたうえで投資を行うことは否定しませんが、リスクは相当大きいでしょう。今後一週間の投資判断は慎重に行うことが肝要かと思います。

市場は大きく揺れています。14・15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利の据え置きが決定されました。利上げ見送りは予想通りではありましたが、今回の政策判断の背景に、英国のEU離脱問題が考慮されている点が非常に興味深いと思います。昨年のいわゆる「チャイナ・ショック」と呼ばれる金融市場の混乱以降、FRBはこれまでの米国内の経済状況を背景とした金融政策の決定プロセスを大きく変更しました。つまり、海外情勢も十分に考慮したうえで、最終的な政策判断を行うようになりました。したがって、今回の決定において、英国の問題が考慮されたのは当然ともいえます。これにより、23日の国民投票の結果を受けて、市場の混乱が収まり、米国経済が利上げすべき状況であれば、イエレンFRB議長が指摘するように、利上げは実施されることになりそうです。

しかし、市場参加者はここまでの見通しを立てることはとてもできません。あまりにリスクが高いですし、全く先が読めない状況にあります。そのようなこともあり、投資マネーは国債に流れています。ドイツ10年債利回りがマイナスになり、米国債利回りも大きく低下しています。安全資産への資金流入が顕著になっていることからも、投資家の慎重姿勢が鮮明にあることが分かります。一方、これまで米国株は非常に堅調に推移してきました。他の主要国の株価指数が低迷する中、世界の投資家はパフォーマンスが相対的に良い米国株に資金を振り向けたことで、米国株の堅調さが鮮明になったものと思われます。そこで米国株と米国債の動きを比較してみると、むしろ米国債のパフォーマンスの良さが目立始めています。つまり、米国債の価格上昇が米国株を凌駕しているわけです。この傾向がより顕著になるときには、市場センチメントは決して良くない状況にあります。米国株はすぐに下落に転じるかは不明ですが、その可能性が徐々に強まっているように見える点には要注意です。

また、投資資金は金(ゴールド)に向かっています。この点については、本欄で何度か取り上げてきましたが、その傾向が最近は特に顕著になっています。年初から金価格は堅調に推移してきましたが、その背景には上場投資信託(ETF)を通じた株価下落へのヘッジ的な意味合いの買いもあったのではないかと思われます。特に欧米勢の金買いの動きはきわめて顕著でした。その結果、金価格は上昇基調が非常に鮮明になっており、16日には1,300ドルの節目を超える場面がありました。この動きも、投資家の将来への不安を示しているといえます。23日には英国民投票もあります。債券高・金相場上昇が続いているうちは、ポジションおよびリスクの管理をしっかりと行うようにしたいところです。

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江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

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