第100回「ETF誕生小史 その1」 ETF解体新書

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第100回「ETF誕生小史 その1」 ETF解体新書

こんにちは。晋陽FPオフィス代表のカン・チュンドです。ETFのアイデアの源流は、1980年代にアメリカン証券取引所のネイサン・モスト氏(1914-2004)が考案した「指数連動型商品」にあると云われています。モスト氏は、指数を構成する株式のバスケットを「預託証券」として上場できないだろうかと考えました(実際、現存する最古のETF「スパイダー S&P500 ETF」が上場した際は、Standard & Poor's Depositary Receipts『スタンダード・アンド・プアーズ 預託証券』と呼ばれていました)。

モスト氏は自身のアイデアを携え、パートナーとなる「運用会社」を探し始めます。最初にバンガードのジョン・ボーグル氏を訪ねました(バンガード社はすでに個人向けインデックスファンドの運用を始めていました)。しかし、ボーグル氏には「トレードに使われるような道具は作るつもりはない」と断られます。次に、バンク・オブ・ニューヨークに出向きますが、なかなか商品のコンセプトを理解してもらえません。最後に訪れたステート・ストリートのダグラス・ホームズ氏は、モスト氏が目指す「新しいツール」の本質を十分理解したのです。こうして、アメリカン証券取引所とステート・ストリートは『合同チーム』を作り、法律事務所とも連携しながら、新たな金融商品の誕生を目指します。

この際、ビークルとして採用されたのが『ユニット・インベストメント・トラスト』(UIT)でした。UITは投資信託の一形態ですが、当時あまり使われることがありませんでした。UITは『倉庫』にたとえると分かりやすいかもしれません。『倉庫』内では、固定的なポートフォリオ(株式)が保有されます。UITは密封された箱であり、株の貸出を行うことは出来ません。また、個々の株式から得られた配当金を倉庫内で再投資することも出来ません。ただし、このビークル内では、通常の投資信託で云うところの「ファンドマネージャー」が不要で、継続コストを抑えることが可能になります。

このUITを預託証券として上場させれば、投資信託の分散効果を得ながら、株のように機動的な売買が可能になるのです。すでに上場型のファンドでは「クローズド・エンド・ファンド」という先行事例がありました。先物・オプション取引に精通していたモスト氏は、既存の上場ファンドで起こりがちな、『市場価格』と『理論価格』のかい離が起こらないよう、新しいプロダクトでは「裁定取引」の仕組みを内包する必要があると感じていました(ここからETFの「設定」「交換」というアイデアが生まれます)。

こうして1989年、アメリカン証券取引所とステート・ストリートの合同チームはSEC(米国証券取引委員会)にETFの上場申請を行います。当時の感覚でいうとETFは『指数先物型』の商品としてのイメージが強く、これを1940年投資会社法による投資信託と見なすには、法律上のハードルがいくつか存在していました。このため、米国初のETFは上場の承認を得るまで4年の歳月を要したのです。そして1993年1月29日、米国初のETF、『スタンダード・アンド・プアーズ 預託証券』(現:スパイダー S&P500 ETF 銘柄コードSPY)が、アメリカン証券取引所に上場を果たしました。このときネイサン・モスト氏はすでに79歳になっていたのです。(続く)


コラム執筆:カン・チュンド

晋陽FPオフィス代表  http://www.sinyo-fp.com/

2000年にFP事務所を開業以来、資産運用に特化したセミナー、コンサルティング業務を手がける。

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